デパートの開店までに必要なあれこれを作った。
「よし、こんなものでいいだろう。」
多めに運んでもらった資材を使い、数百人が宿泊出来る施設を作った。
高層施設にしてもよかったんだが、エレベーターを常備出来ないと不便なのでアパートと同じ3階建てで敷地面積を広めに取らせてもらっている。
これだけ部屋数があればよっぽどじゃなければパンクはしないだろう。
ここの管轄をどうしようかと思いプラインエルフ族とラミア族に声をかける、生活魔術が無いとこういった施設の管理はやりづらいだろうし。
「ラミア族が管理します、まだ人員に余裕はありますので。」
「分かった、広い施設だし無理はしないようにしてくれ。
人員不足を感じたら早めに言うんだぞ。」
ラミア族が3人で宿泊施設を回すらしい、大丈夫かな……生活魔術があるから普通の人間がやるより数倍時短出来るだろうけど。
ベッドメイクとかも出来るのかな?
とりあえず様子見だな、明らかに無理をしているようだったら他の種族に声をかけて増員しよう。
次はケンタウロス族とアラクネ族のところへ行って布団やタオルなんかを準備してもらわなきゃな、流石にあの部屋数分の在庫はないだろうし。
「分かりました、今ある分は全て運び込んでおきますね。
恐らく明日までには準備出来るかと。」
ケンタウロス族のところへ行くとびっくりするような返事をされた、そんな納期に追われた社畜のデスマーチみたいな事をしなくてもいいんだぞ。
「それは流石に無茶しすぎじゃないか?
いきなり満員になるとは思えないし、もっと余裕を見ていいぞ。」
「いえ、実際在庫が結構な量ありますので……別の種族が増えてもいいようにとこれまで作ってきましたから。
それにアラクネ族にタオルと布団の中身を任せれますし、問題ありませんよ。」
そう言われれば村に新しい住民が来ても布団やタオルに困ったことはなかった……別に疑問に思ってなかったがそういう事だったんだな。
「分かった、さっきも言ったが急に満員になるわけじゃないから余裕を持った制作で構わないからな。」
「分かってます、この村に来て働きすぎたことはないので安心してください。」
それならいいんだけど、命にかかわる仕事でもないのに過労で住民が倒れるなんてことにはなってほしくないから気を付けてほしい。
これで布団とタオルは解決、次は広場に行って雨天でもバイキング形式が取れるように広場で作業をしなきゃな。
広場に行くと、既に必要な資材が運び込まれていた。
「村長、建てたいと言われてたものに必要な資材を見繕って運んでいますが足りない物はありますか?」
そう言われて確認をする、木に砂に鉄に練り石と石材……大丈夫そうだな。
「これで足りると思う、ちょっと錬成してみるから待っててくれ。」
まずは柱とガラスの屋根を思い浮かべる……無事光ったので広場全体を覆えるように錬成。
少し強度が不安なので柱を数本付け足しておく、結構な広さだったのに6本しかないのはちょっと怖かったし。
次は机と椅子だな、木の量が少し不安だが錬成してみるとほぼぴったり。
数センチ四方の角材程度しか余らなかった、どんどん資材の必要な量を見極める能力が研ぎ澄まされていってるのが分かる。
流石に砂や鉄はそこそこな量が余るな、これはどれくらい使ってるか分かりづらいから仕方ないとは思うが。
ちょっと悔しそうにしてる、足りればそれでいいんだから悔しがらなくても。
「よし、突貫工事だったがやることはやったはずだ。
協力ご苦労様、ゆっくり休んでくれ。」
「これくらい何ともありませんよ、ですが少し休憩してから他の仕事に戻るとします。」
稔の季節が近づいてるとはいえまだ暑いからな、熱中症になったら大問題だし。
……熱中症と言えば水分補給を出来る場所が少ないな、家に帰ったらウーテと相談して給水所をいくつか作るようにしよう。
そうだ、初めて村に訪れる人も増えるし村の見取り図を配れると役に立つかもしれない。
だが文字の版しかないし大量生産は難しいかもしれないな、間に合えばでいいので印刷所のラミア族に相談してみるか。
給水所はそこまで時間がかからないはずなので、俺は先に印刷所へ向かって歩き出した。
もし無理そうなら仕方ない、一応各所に案内板は設置しているからそれで我慢してもらうとしよう。
「真上から見た村の写生物があれば魔術で版を掘ることは可能です。
版を作るのに少し時間はかかりますが、出来てしまえば大量生産はすぐに取り掛かれますよ。」
「なるほど、しかし絵が得意な人なんて村にいるか分からないな……誰もそういったことをしているのを見たことがないし。」
「絵ならラミア族の長であるユリア様が得意ですよ。
村長は想像しづらいでしょうが元々ラミア族とハーピー族は仲が良かったので、ハーピー族の長であるイェニファーさんの背に乗せてもらって風景画なんかを嗜まれてましたし。」
そういう趣味があるならどんどんやってくれていいのに、仕事が忙しいのか頑張らないとという気持ちが前に出すぎているのか。
もっと肩の力を抜いてくれていいんだけど、ユリアを始めラミア族は生真面目な気質が多い気がする。
「ならユリアとイェニファーに声をかけてみる、もし引き受けてくれたら完成した写生物をここに届けるように伝えるよ。」
「分かりました、それまでは他の告知物を作る準備や版の整理をしていますので。」
印刷所も大変そうだが思ったより楽しそうで何よりだ、それより他の告知物って何だろうな。
また俺の知らない情報が告知物で流れるのだろうか……一応俺村長なんだけど。
余程重要じゃなければ気にしないけどな、今回の告知に関しては事前に知りたかったけど。
告知物について考えながら歩いているとラミア族の住居に到着し、ユリアを見つけた。
「ユリア、ちょっといいか?」
「何でしょうか?」
「村の施設区を真上から見て、それを写生してくれないか?
村に初めて来る人がこれから多くなりそうだし、見取り図をラミア族に印刷してもらいたくて。」
俺がお願いすると、ユリアの顔が物凄く嬉しそうになった。
「絵を描ける機会をいただけるなんて!
ありがとうございます、是非やらせていただきますよ!」
そんなに絵を描くのが好きなのか、そういう仕事を考えてあげたほうがいいかもしれない。
ドワーフ族を見ていると好きなことを仕事にしている人は本当に生き生きとしているからな、その人にあった仕事をするべきだと思う。
前の世界じゃ趣味を仕事にするとモチベーションの維持なんかがネックになってしまうけど、この世界ではそんなことないからな。
「それじゃ頼んだぞ、完成した物は印刷所へ届けてくれたらラミア族が対応してくれるはずだ。」
「分かりました、すぐに準備して写生に向かいますね!
イェニファーに乗せて飛んでもらうよう頼んでこなきゃ!」
ユリアはニコニコしたまま準備に走っていった、いずれは何枚かに分けて村の見取り図を作ってもいいかもしれない。
その時はまたユリアに頼むとするか。
俺は家に帰りウーテに給水所を作ろうと相談、ウーテは快諾してくれた。
授乳が終わってペトラとハンナが寝たので、二人で散歩がてら給水所を作る場所を探すことに。
「材料はどうするの?」
「あ、そういえばそうだな……またケンタウロス族とミノタウロス族に運んでもらうよう頼むか。」
「それくらい私がするわよ。」
そういって倉庫に行くウーテ、大きめの石を数個選別して荷車に乗せて引っ張り出す。
ウーテもドラゴン族なのを改めて思い知らされるな、ものすごい力だ。
そのまま重い荷物を女性に運ばせるという恥ずかしい構図のまま決めた場所まで歩き、給水所を錬成。
施設側に10か所、広場に4か所作ったのでこれだけあれば充分対応出来るだろう。
溢れた水は水路まで繋がる小さな管を想像錬金術で作り、それを地中に埋めて排水している。
何かあれば対策することにしよう。
ウーテの出産からデパートの開店までの間にやることがてんこ盛りだったな、流石に少し疲れたので休ませてもらおう。
そう思いながら家に向かっていると、複数のドラゴン族が荷物や人を乗せて帰ってくるのが見えた。
……もう少しやることが出来たみたいだ、頑張ろう。
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