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第7話 友達だから

 洞窟を出ると、そこには青々とした空が広がっていて、ここが魔族の住んでいる世界だという事を忘れそうになる。しかし村では一転して住民達の殺伐とした空気が流れていたのだった。

 そして、そんな不穏な空気を漂わしている村の中を歩いていると、すぐにウィルソンさんを見つけられた。


 ウィルソンさんを見つけた俺達は、急いで彼に一連の出来事を説明した。


「……ということなんだ」


「なるほど……。実は私もある件で村長に伝えたいことがあったのです。ティミーは以前から魔石を探していたという情報を耳にしまして」


「魔石?」


「はい、例のグリードの魔石です」


 その瞬間、アヤメが目を見開いた


「でも、あの石はこれまで多くの魔族達が探しても見つける事ができなかった魔石だ。そんな魔石を彼女が見つけられるとは思えない」


 俺は二人の話がさっぱり分からず、おいて行かれる。しかし、そんな俺の様子に気づいたのか、シルバとウィルソンさんが説明をしてくれた。


「魔石というのはその名前の通り、魔力が流れている石の事さ。本来、魔族を含めてどんな種族でも魔法を使えば魔力を消費してしまうんだ。それを補充する石が魔石なんだ」


 そして、シルバの説明を引き継いだウィルソンさんが、


「他にも、あなたがたが食事をとることで、生きていくのに必要な栄養素を摂取しているように、魔族も魔石から魔力を流しこむ事で必要な力を摂取しているのです。つまり、我々にとって魔石は必要不可欠なものなのです」


 なるほど、だいたい話が見えてきた。しかしグリードの魔石って……?


「ティミーが探している魔石は、グリードって悪魔が残したといわれている魔石なの。魔族の眠っている力を極限にまで引き出すことのできる魔石なんだって」


 そして、最後はアヤメがそう説明してくれた。


 眠っている力……。つまり、ティミーは以前からその魔石に興味があって、それを探すために森に入ったという事か。


「その魔石を手に入れるために、僕たち魔族は何百年も前から探しているんだけど、それでも見つけられないでいるんだ。そうなるともう、結界の中にあるとしか考えられない……」


「結界って?」


「魔族を通さない結界さ。どういう意図があって張られたのかは分からないが……」


 そう言ってシルバは考え込む。これらの話が本当なら、確かにその魔石は結界の中にある可能性が高い。しかし魔族であるティミーは結界の中に入ることはできないはずだ。


「でも、結界には入れなくても森にはいるかもしれないし早く捜しに行かないと!」


「だからまずは落ち着くんだ、アヤメ」


 今にも飛び出していきそうなアヤメをシルバが落ち着かせる。


 そんな中、俺の頭には一つの考えが浮かび上がった。


 もし魔族だけが結界の中に入れないんだったら……。


「魔族が入れないのだったら、ほかの住民に頼むことはできないのか?」


 そんな疑問にアヤメは首を振る。


「正直、難しいと思う。結界の中は本当に危険な場所だから……」


「ただでさえ魔族への反感が高まっている渦中です。そんな中で魔族の子を助けるために、危険な結界の中に探しにいってくれないか、といわれても協力してくれる者は、そうはおりますまい」


 確かに、そういわれると協力を仰ぐのは難しいだろう……。



 その時、一人の女性の声が聞こえてきた。


「どうして、あなた達がいるの?」


 そこに立っていた女性は、昨日森の出口で会った、ティミーと一緒にいた子だった。名前は確か……。


「リリー、ティミーの居場所が分かったの!彼女は森にいるのかもしれない!」


「……確かに、森にティミーがいる可能性はあるわ。私も今から向かおうと思っていたの」


 そんな冷静なリリーにアヤメが詰め寄る。


「ティミーを捜すの、私たちも協力するわ!」


 そんなアヤメの言葉を受けて、リリーは困惑する。


「……どうしてあなたが協力するの!?」


 リリーの質問にアヤメはぽかんと不思議そうな顔をした。


「何でって、友達だからに決まっているでしょ?」


 そんなアヤメの言葉に、今度はリリーが口をあんぐりとして固まる。


「と、ともだち?」


「うん、友達。少なくとも私はそう思っている」


 リリーの言いたい事は分かる。ティミーとリリーはこれまで、さんざんアヤメを虐めてきたのだろう。だからこそ、そんな二人を友達だと言ってきたアヤメが理解できないのだ。


「とにかく、私はティミーを助けたい、それだけ」


 そんなアヤメの言葉を受けてリリーは「でも……」と何か言いたそうだったが、ここで言い争っている時間は無いと思ったのか、ふぅと息を吐いた。


「理解できないわ」


「うん、私も分かってもらおうとは思ってない」


 そうして、数秒間の沈黙の後、リリーがウィルソンに向き直る。


「ウィルソンさん、彼女は私が連れて行くわ。私の能力を使えばすぐに森の入り口に連れていけるし」


 能力、移動?


 そんな疑問に答えたのはシルバだった。


「彼女は魔法で瞬間移動ができるんだよ」


「移動できる距離と連れて行ける人数に制限があるのが欠点ですけどね。あと魔力の消費量が高すぎるのが……」


 そういって、苦々しい顔をするリリー。そうして彼女が手を空に掲げた瞬間、シルバが、


「待って。僕達も行くよ」


「……僕達?」


「それはもちろん、僕とかけるさ」


 その発言に、リリーは呆れた表情になる。


「意味が分かりません。村長はともかく、そこの人間も連れて行くと? いくら結界の外側といっても危険が無いわけではないのですよ?」


 そんな冷ややかな言葉をかけてくるリリーだったが、俺も引くわけにはいかない。


「勿論、危険は百も承知さ。でも俺、ティミーの居場所を探知できるかもしれないんだ」


 そんな俺の言葉を聞いて不思議そうな表情をするリリーにアヤメが説明する。


「かけるには、他人の声や感情を読み取ったり探知する魔法があるの。ティミーが森の方にいるって最初に気づいたのはかけるだったのよ!」


「声や感情を……?」


 それでも納得のいっていない様子のリリーに対して、


「そう。ティミーを探すためには必要な魔法さ」


 最後はシルバが太鼓判を押してくれた。


 そんなシルバの言葉を受けて、リリーはしばらく考え込んだ後、こちらに向き直る。


「ある程度の危険は覚悟してるのよね?」


「ああ、もちろん」


 彼女はこちらをジッと見つめ、やがて諦めたようにため息をつく。そんな様子をみてウィルソンさんは、


「決まりですな。我々も村の様子が落ち着いたらすぐに向かいます」


「いつもすまないねウィルソン。こちらもなるべく早くティミーを見つけて戻ってくるよ」



 そうして、再びリリーが手を空にかざした瞬間、地面に魔法陣のようなものが浮かび上がり、3人と一本は眩い光に包まれるのだった。




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