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悲劇と狂乱の少女たち ――伝説ノ始動――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 学生の少女 と 実験台の少女 ――財閥連合・氷覇支部――
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第3話 殺害命令と捕縛命令

 財閥連合社は、違法な私設軍を保持している――。


「私共の私設軍は、国際政府の私設警備隊法に乗っ取り、適切な範囲でのみの保持となっております」


 その軍事力は、極めて強大で国際政府の地方保安軍を凌駕する。装備は最新鋭のものを使い、兵器も無制限に生産と保持を行っている――。


「保持する武器・弾薬につきましては、国際政府・防衛省へ提出している資料に詳細を記載してございます」


 中でも恐ろしいのは、アンドロイド部隊だ。人間型をした軍用兵器は、大量生産されており、何十万、何百万体と存在しているらしい――。


「簡易型アンドロイド兵器の生産計画も、国際政府・防衛省へ年間計画を提出し、減産・増産時は、直ちに修正申請を行っております」


 財閥連合社は、地方における魔物討伐だけじゃなく、南方大陸における紛争にも加担し、自社の兵器の戦闘データを集めているのだとか――。


「南方大陸における平和維持活動及び、人道支援につきましても、国際政府・外務省へ、事前申請と年次の活動報告書を提出し、いずれも外務大臣閣下より、承認を得て御座います……」


 国際政府・元老院議会で、答弁されるあの言葉のウラに、彼らは必ず悪事を働いている――。



























 【財閥連合・氷覇支部 実験棟 廊下】


[止まれ!]

[両手を上げ、その場で跪け]


 黒一色の人間型アンドロイドたちが、実験台の少女と少年の前に立ちふさがる。細いその手には軍用の銃――アサルトライフルが握られていた。ハンドガンよりも、大型の銃だ。


「……私はもう、実験台なんかにはされない! あなたたちに捕まるぐらいなら、ここで死んでやる!!」


 少女は右腕を自身の体の前で大きく振る。すると、彼女と少年の体に向かって、それぞれの体を中心にするように、どこからもなく風が吹きつける。


「わ、わ、なんだ!?」

「慌てないで。風魔法による物理シールドだよ」

「な、なんだそれ!?」

[――風魔法を検知。2人を財閥連合社及び計画に対する脅威と判定。生け捕りを中止。即刻殺害せよ]


 廊下中に、女性の声が鳴り響く。だが、それはどこか無機質な声だった。感情のこもっていない声で、淡々と2人への殺害命令を発する。


[了解。了解……]

「来るよ」

「お、俺も殺すつもりか……!」


 少年はハンドガンを構え、引き金を引く。乾いた発砲音が鳴り、弾丸が漆黒色のアンドロイドを撃ち砕く。アンドロイドは撃たれどころが悪かったのか、一発で機能停止させられる。


「ふぅん、やるじゃない」

「B-α型は、最低限の体で作られている。だから、大抵はどこを撃たれても一発で壊れるんだ」


 少女は話しながら右腕を再び振る。次は風の塊をした魔法弾が発せられ、軽く尾を描きながら、銃撃を始めたアンドロイドたちに向かって飛んでいく。


「う、うわぁっ!」


 魔法弾がアンドロイドたちに着弾する前に、彼らの放った銃弾の方が先に襲い掛かってくる。少年は無意識に両腕で飛んでくる銃弾を防ごうとする。

 だが、しばらくたっても、両腕はおろか、身体には痛みが走ることはない。少年は恐る恐る両腕をゆっくりと下げ、目の前の状況を確認する。


「どうしたの? もう終わったよ」

「………!?」


 少年は驚愕の表情を浮かべる。さっきまで銃撃していた4体のアンドロイドたちは、全て機能停止して、床に転がっていた。いずれも、身体のどこかが砕け、金属くずとなり果てている。


「これが財閥連合社の誇るアンドロイド部隊?」


 彼らをいとも簡単に破壊した少女は、あきれ顔を浮かべながら言う。


「あ、安価でとにかく大量生産することを意図して作ったんだ。素材自体も耐久性とかは皆無に等しいはずだ。だから――」

「…………! また出てきた」


 少年の言葉が終わらぬうちに、2人の向かう先から、再び同型種のアンドロイド兵士たちが走ってくる。今度は6体も走ってきている。少女は両手に風を纏うと、そのまま走り出す。


[撃て!]

[攻撃セヨ!]

[破壊セヨ!]


 少女は先ほどと同じような魔法弾を次々と飛ばす。銃撃をするアンドロイド兵士たちは、なす術もなく壊れていく。耐久力のなさ、それは財閥連合社も理解していた。とにかく安価で、とにかく組み立てやすくて、とにかく早く作れる。――B-α型アンドロイドは、それでよかったのだ。


「くそ、集まってくる前に移動しなきゃ……! で、でもどうやって逃げれば……」


 少年は少女を追うようにして、その場から駆け出す。彼は理解していたのだ。B-α型の本当の恐ろしさを――。





[破壊セヨ!]

「邪魔だっ!」

[攻撃セヨ!]

「道開けろっ!」

「どうしたの? そんなに余裕のない声しちゃって」


 これで何度目だろうか。少年はB-α型から奪ったアサルトライフルで、弱卒のアンドロイドを撃ち壊す。だが、彼には明らかな焦りが存在していた。


「さ、さっきは言いそびれたけど――」

「…………?」

「B-α型――バトル=アルファはたくさんいるんだ」

「…………? そうだね、でもそれが――」

「違う! バトル=アルファは無限大に押し寄せる。壊しても、壊しても現れ続ける。物量作戦を取ることができるんだ」

「…………! それじゃ……」

「ああ、――俺たちは生身の人間。いずれ疲れがやってくる。そうなれば、もう戦えない! このままだと、飛空艇プラットホームにたどり着く前に、きっと俺たちの体力が切れる」


 少年は理解していた。B-α型――通称、バトル=アルファの特性を。そして、氷覇支部という施設のことを。氷覇支部の実験台という狭い世界で長らく過ごした少女には、見えていなかったことだ。


「……そうだったんだ。教えてくれてありがとう」

「礼を言ってる場合かよ……」

「……………。君は、――そういえば、君の名前をまだ聞いてなかったね」

「はぁ? こんな時になんだよ!?」


 状況を理解させたはずなのに、まだ余裕そうな少女。少年は危機感が共有されない少女に若干のいら立ちを覚えていた。


「一緒に逃げるのに、名前ぐらい知っていたい」

「……メタルメカ。いや、グラディウスだ」

「そう、かっこいい名前。――私はケイレイト。忘れないでね」

「…………?」





 【財閥連合・氷覇支部 最高司令室】


「実験台Kはまだ捕まらないのか?」

「は、はっ、申し訳ありません。しかし、追跡は出来ておりますので……」

「……ウォーレン博士、そろそろ巡回対応の方に向かわねば、これ以上引き延ばすのは不信感を抱かれ――」

「分かっている!」


 ウォーレン支部長は、苛立ちのこもった声を上げる。ケイレイトの脱走を聞いた彼は、巡回対応を後回しにし、捕縛の指揮を執っていた。だが、これ以上、その指揮を執ることは不可能であった。すでに長い時間、アリナスとフィルドを待たせていたからだ。


「シュレラ=エデン! 捕縛は貴様に任せる。捕縛だぞ! 絶対に殺すでないぞ!」

[……了解]


 無機質な女の声が発せられる。シュレラ=エデンは、一度、ケイレイトの殺害命令を発していた。だが、ウォーレン支部長はその命令を良しとしなかった。貴重な実験台の喪失を意味していたからだ。そのため、彼は支部長権限で命令を殺害から、捕縛へと変更していた。


 そしてそれもまた、過ちであることを知るのは、もう少し先となる――。

  <<財閥連合社の製品情報>>


 【バトル=アルファ】


 正式名称は「B-α型アンドロイド」。

 人間型のアンドロイド兵器で、財閥連合社の財産と事業活動の保護を目的としている。

 また、国際政府軍と共に、南方大陸における紛争地での平和維持活動にも従事。

 人間型であるだけに、人間と同じ兵器や道具を使うことができる。


 販売はされていない。

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