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悲劇と狂乱の少女たち ――伝説ノ始動――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 学生の少女 と 実験台の少女 ――財閥連合・氷覇支部――
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第1話 運命の始動

 ――『財閥連合社』とは、世界最大の民間企業である。


 同社は世界統治機構『国際政府』とその市民たちを最大の顧客とし、

平和安全の維持、高度な医療の提供、安定的な経済の発展に寄与してきた。


 だが、彼らは極秘裏に、違法な軍事兵器の開発・生産、魔法科学の研究、ウィルス実験を行っていた――。

































「本日、16時頃に国際政府の巡回官がくる。念のため、本日の人体実験は中止してもらいたい」


 電子スクリーンが表示された薄暗い部屋。白衣をまとった一人の男性が不満そうな表情を浮かべている。


「コモット副代表、国際政府は定期巡回でしょう。何も中止する必要はないのでは? いつも通り、応接室で資料を提出。あとは、定例ヒアリングで終わりではないですか?」

「ああ、そうだ。定期巡回は問題ない。――問題は実験の方だ」

「実験が問題? それはどういう意味ですかな?」


 白衣の男は眉間にしわを寄せ、あからさまに不満を表す。電子スクリーンに映るスーツを着た男――コモット副代表が言いたいことは分かっていた。


「3年前、実験中に実験台が暴れ、逃げ出したことがあっただろう。施設外に逃亡する前に射殺できたが、もしあれが政府の巡回中であったならば――」

「この施設への巡回は1ヶ月に4~5回はある。ほぼ毎週だ! その度に実験を中止していては、完成に何ヶ月かかる!」


 苛立つ白衣の男。電子スクリーンに映る男に対し、彼は言葉を荒げる。彼は知っている。コモット副代表が実験の中止を求める理由を。


「実験を中止させたくなければ、我々は最高の環境を用意できる。……実験データを本部へ移管し、――」

「本部の連中に私の研究を!? ……生身の実験台も、積み上げたデータも、施設も全てここにあるのだ! 完成も近いのに、今更研究を移せというのか!」


 白衣の男は、口から"不都合な真実”を発しそうになるのを、何とか抑え込む。

 今、この支部では、とある研究を行っていた。その研究は完成が近い。だが、本部側は研究の完成に一枚かんでおきたかった。そのため、定期巡回を理由に、研究の移管を幾度となく提案していたのだ。


「……ウォーレン博士、実験の準備が整いました」

「ああ、すぐに行く。――コモットくん、ついでに言っておく。私の研究が完成したら、顧客は喜ぶだろう。君の率いるチームより、迅速に結果を出せたことになる。その暁に、もし君が私のチームに加わることになったら、……ぜひとも歓迎しよう」

「…………!」


 白衣の男――ウォーレン博士は、コモット副代表が言葉を発する前に、通信を一方的に切る。そして、そのまま白衣を翻して、機密通信室を後にする。


「実験台Kを移送。魔導装置の準備を始めよ」

[了解。実験台K移送に、メタル分隊を派遣します]


 ウォーレン博士以外、誰もない部屋で無機質な女の声が響く。


「ああ、それで頼む。私はここの責任者として、定期巡回にきた連中を相手してくる」

[了解。「国際政府」の巡回官――アリナス准将、未登録の女性1名が間もなく到着されます]

「未登録の女性だと?」

[財閥連合社のデータベースには登録のない人物です]

「……では、要人というわけではないな?」


 ウォーレン博士は椅子に座ったまま、誰もいない部屋で話し続ける。

 政府要人は無論、財閥連合社のデータベースには、大なり小なり、あらゆる人物のデータが掲載されている。上は政府幹部、下は顧客情報まで。掲載がないということは、それだけで無名の人間であることを現わしていた。


[歳若く、推定年齢は15歳前後と思われます。

 国立グリード・防衛ハイスクール発行 『EF2002年 総合能力部門 優秀成績者』に同一人物と思われる少女の写真が存在します。しかし、名前は不明。

 防衛幹部育成制度を利用し、アリナス准将の弟子となった者と思われます]

「……フッ! 我々も舐められたものだ。現場視察先を、我々の施設にするとはな!

 ――メタル分隊の3/2の人員を応接エリアへ配置しろ! 移送は若手だけでも事足りるだろう」

[……了解。中堅・ベテランのメタル分隊員を応接エリアへ向かうよう、指示を発しました]


 ウォーレン博士は、この施設の責任者であった。彼は自らの研究に絶対の自信を持っていた。

 本社は自分の研究成果を横取りしようとしているぐらいだ。なのに、国際政府ときたら、ルーチン的で、何も問題など起こりえるはずのない定期巡回とはいえ、幼い学生を連れてきた。

 そのことは、ウォーレン博士の自尊心に少ないながらも、傷をつけていた。


「我が“氷覇支部”の軍事力を、ちょいとばかり見せてやれ。舐められては困るからな!」

[…………]


 ウォーレン博士。

 彼は魔導研究分野における期待のエースであった。若くして氷覇支部の支部長を任され、禁断の研究を続けていた。

 だが、政治的・社会的経験は皆無であった。彼は感情のまま、何の意味もないどころか、自身にとってリスクを高めるような指示を出してしまった。


 そしてそれは、彼自身の破滅を招くことになるのを、彼はまだ知らない。そして、このとき、終わりの運命が始動したことを、世界の誰もが気づいていない――。






























 世界から、平穏という陽が西日となり始める。


 迎えるのは、混沌という闇。


 科学と魔導が入り乱れる禍が、もたらされようとしていた――。

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