3話 スプラシオンの森
ダンジョン前の関所のような場所に並び順番を待つ。
この関所はダンジョン前には必ずあるもので、ダンジョンの核たる『ダンジョンマスター』と世界中のダンジョンの情報を管理している『地脈管理局』から派遣される職員の協力のもとに建築される。
ダンジョンマスターは文字通りダンジョンの管理者であり、基本的にはダンジョンの初期突破者にその権限が与えられるが、稀にダンジョンが初めから自分の分身を生み出して管理者とするケースもある。
「はい行ってらっしゃいお気をつけてね~っと。はい次の方~」
スプラシオンの森は後者のパターンであり、関所のカウンターで対応をしているこの子こそスプラシオンの森のダンジョンマスター、ミステルである。
「なんだあんたたちかぁ。今日はお使いか?」
見た目こそ妖精族なのでちっちゃいが、大ダンジョンの化身ともいえる存在なので強さは折り紙付き…らしい。
「いや今日は通常の方ではなくD級ディメンションの方に行こうかと思ってて」
「へ~ってことはテウィルの坊ちゃんの研究材料が尽きちまったか。」
テウィルがミステルとダンジョン入場の手続きをしてくれている。
テウィルが言っていた『ディメンション』こそさっき言っていた「入っちゃえば人混みなんて気にならない」理由であり、大ダンジョンと呼ばれる特徴の1つ。
普通のダンジョンは入り口が1つであり、いくら内部の空間が歪んでいても別パーティとぶつかってしまうことも多い。
それはそれで救援などのプラスの要素もあるけど、資源の上限やモンスターのポップ(基本的にダンジョン侵入者が多いほどポップは多くなる)の問題も生じてくる。
このディメンションの技術はナナミドで生まれたもので、いくつかのアイテムを使ってダンジョン内の空間のコピーをパーティ単位で固定化し、一時的に専用化する。
この専用化した空間は本来のダンジョンとは別の存在となっており、他のパーティは入ることができない。
開発されたての不安定な技術ゆえか、なぜかモンスターや素材の質が上がるのだが、むしろ助かるといった理由で広く浸透している。
この生成するダンジョンの質を決めるのが先ほど言ったいくつかのアイテムで、今日は下から2番目のD級を開くためのの材料を使用する。
「ほい確かに受け取ったよ。そんじゃ扉を開けるから待ってな。」
ダンジョン前に関所がある理由がこれで、扉を開くのに準備が必要なのと、初めに侵入したパーティしか侵入許可が下りないので、一時は横入りや勘違いでの侵入が多かったらしい。
材料を確認したミステルは職員に材料を渡し、受け取った職員はあらかじめ用意されている魔法陣に材料を放り込んでいく。
「いつ見ても不思議だよね~あれ。魔法陣が素材食べてるみたいだし」
「実際は呼出しだけどな。おまえらでいうところの家の呼び鈴みたいなもんだ」
シザンナの言葉にミステルが返す。さすがダンジョンマスターといった所か新技術の内容にも詳しい。
「ダンジョンの質ごとに要求する材料は決まっちゃいるが、全く同じダンジョンには行けないだろ?いくら材料名が同じでも質や形まで完全に一致なんていかないからな。ちょっとの違いで応答するダンジョンも違う。だからいつも違うダンジョンに繋がるんだ」
シザンナがほへ~っといった感じでミステルの話を聞いている。テウィルの方は最後の確認だろうか。自分の荷物を見返していた。
シザンナは軽戦士系統で行くのだろうがテウィルの今回のジョブは聞いていないので今のうちに確認しておくことにした。
「テウィルは今日はどの武器で行く?」
「シザンナが今日は双剣の気分って言ってたから支援のしやすい青魔術かなぁ?」
「まぁ止まってくれなさそうだもんね。攻めはシザンナに任せて僕たちでサポートしようか」
冒険者の成長の指標となる『ジョブ』。この世界では1人1ジョブなどという決まりはなく、適性が認められればいくらでもジョブを所持できることになっている。
剣術と魔術の合わせ技を目指して前衛後衛両方を経験していく人もいれば、家系で剣の道だけを究める人もいる。
僕はというと、片手武器と盾の適性の他に回復魔法も扱える。
よってこれらの扱いにボーナスがかかってくる片手剣に盾で仲間を守る盾士や、回復に適性が入るが少しだけ防御性能が落ちた聖戦士辺りがおすすめされ、実際に自分に合ったジョブだと感じている。
「フレン~テウィル~もうすぐ開くだって~」
シザンナの呼ぶ声が聞こえる。見るとダンジョン入り口にうっすらと光の膜のようなものが見える。
あれこそがディメンションの入り口で今回限りの僕たち専用ダンジョン。
「テウィル、準備はいい?」
「目的アイテムの確認もとれたし大丈夫。行こうか」
冒険者の象徴となるアクセサリ(僕は腕輪)のくぼんだ部分にジョブの証をはめ込む。今日のジョブは聖戦士にした。
「おう開通完了だ!気をつけて行って来いよ~」
ミステルの声を背に僕たち3人のパーティは誰もいないダンジョンへと入っていった。