彼らバレンタイン
「それで合法化できたって言う気か」
出来の悪い女装をした同級生は可愛らしいと自負していていそうな雰囲気で首をかしげて見せた。
「本命だよ?」
つい先ほど譲渡された小さな紙袋を指さしながらもう一度、今度は反対側に首をかしげて言う。無意味にメイクを重ねている顔を左右に振る仕草は可愛らしさなど欠片もなく小馬鹿にしているようにしか見えない。
「悪いが女装野郎からチョコを貰ってやる義理はない」
紙袋を押し付けると、軽く後ろに跳ねて避けられた。少しだけ舞うスカートを手早く抑える仕草が妙に様になっていた。
「だから、義理じゃないって」
「そういう義理じゃねぇよ。貰ってやる本命はないって言えば満足かよ」
「それちょー面白いね」
言いながら掌半ばまで覆ったカーディガンの袖で口元を隠す。全く笑う気はない癖にその仕草をするためにだけに言わされた気がして腹が立つ。
「ところでさ。可愛いって言って?」
無言で胸元を殴ってやった。不気味な柔らかさがあった。
「きゃー」
先ほどまでのクオリティはいずこへか、棒読みの悲鳴を上げながら抱き着いてきた。
「お前……」
「タオルとパッド」
女子力皆無な囁きにため息も引っ込んでいた。
「お返しは女装でいいよ」
「お前の格好良さ次第だな」
「すでにかわいい」
今度は腹にねじ込むように拳を放つ。