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メガイラ  作者: 高村
9/16

9/告白と離別、その子供の名前

 「君はニンフェットだね」

 「残酷なことを言いますね。年ごろを過ぎれば価値をなくすということですか?」

 「皮肉を言わないでくれ。純粋に、悪魔的魅力の持ち主だということだよ」

 「悪魔――ね。光栄です」

 「だからか弱い子羊を誘惑しないでくれ」

 「ルシファーがよく言いますね。子羊とは誰のことです?」

 「傲慢の悪魔とは酷いな。それじゃあ君はリリスかい?」

 「ええ。でも――あなたも私も、ソドムの罪を貪るのですから」

 「ベルフェゴール」

 「そうでしょうね」

 「二匹の蠍か。なかなか魅力的じゃないか」

 「お気に召しまして?」

 「ああ。綺麗な毒虫に殺されるなら本望だよ」

 「ご冗談を。いつか私に殺されても文句は言えませんよ?」

 「構わないよ。僕は初めからそのつもりだ」

 「娘さんはいいんですか、パパ?」

 「君こそ残酷じゃないか――正直、僕にはあまり興味のない話だね」

 「何故?家族などどうでもいいと?」

 「そこまでは言わない。でも、親子の愛は所詮偶発的なものだ。自分で選び、勝ち取った訳じゃない。高が知れているさ」

 「私の存在は?」

 「君は、もう僕の娘じゃない。少なくともこれは、親子の愛じゃない」

 「そう、では共犯者?」

 「君は――被害者だろう」

 「いいえ。貴方は私の、偶像ですから。私の罪でもあります」

 「偶像」

 「はい」

 「信じてなんかいないんじゃなかったのか?」

 「――古いことをよく覚えていますね」

 「あの頃から君はニンフェットだったということだよ」

 「そうですか――」

 「ああ」

 「――信じています。でもそれはあくまで偶像。神自体ではない。私が主体で、私にとっての貴方の意志は、貴方のものではない」

 「冷たいね」

 「口に出さなくても、誰もが他人に対して行っている仕打ちです。表現次第でしょう」

 「言ってはいけないことだね。種明かしはしちゃいけない」

 「でも、私がどこまで分かっているのか、どこまでする気か、知りたかったのでしょう?」

 「――まあね。知らせるつもりか」

 「凡ては神の御心のままに」

 「僕次第、ね」

 「終わりにしますか?」

 「酷い子に育ったね、志乃」

 「貴方によく似て?」

 「より完全だよ、愛してる」

 「ありがとうございます――貴方に、言わなくてはならないことが」

 「何だい」

 「貴方の――いえ」

 「できたのか」

 「――お父さん」

 「言え。志乃の口から聞きたい」

 「私の中で今貴方の子供が育っています」

 「よくできた――どうしたい?」

 「生みます。私の子供ですから」

 「――そうか。朝海は反対するだろうな」

 「あの人の意志は関係ありません。貴方と私の子です」

 「あぁ――この歳でお祖父ちゃんとはね。これからどうするつもりだ?」

 「生んで、育てていきます。母とも別れることになるでしょう。この子の為なら何でもします」

 「母性本能か」

 「いえ、自尊心です」

 「僕は何をすれば――」

 「何も。私は貴方に何も望みません」

 「そうか」

 「さようなら」

 「名前だけ、聞かせてくれないか」

 「みかど。深い、清廉の廉」

 「意味は?」

 「潔く、高く、深く、ただ確固とした人間で」

 「良い名前だよ。さようなら、志乃。愛してると、深廉にも伝えてくれ」

 「わかりました。さようなら、お父さん」

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