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メガイラ  作者: 高村
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6/西川志乃が父に宛てて書いた手紙(2)

 さて、お父さん。

 きっとお父さんも興味がおありでしょうから、私と彩香ちゃんの初対面までのお話をざっとお書きしておこうと思います。

 綺麗な子ですね。初めて彩香ちゃんを見たときにそう思いました。そして賢そうだった。自信に満ちていて、私はとても羨ましかった。正直嫉妬しました。いえ、これは正しい言い方ではありませんね。私は彩香ちゃんに、激しい羨望と憎悪を感じました。これが正直な感想です。

 私は色々と手を尽くして、彼女に行き着きました。少々面倒な作業ではありましたが、彼女に対する興味とお父さんに対する焦燥から、私は意欲的にその作業をこなしていきました。具体的に言いますと、彼女の友人の兄に近付き、そして彼女の友人に紹介してもらい、その子から彩香ちゃんに紹介してもらう。私が彼女と知り合うためにしたことは、この三つです。大して難しい行動ではありませんが、私はこれらの作業を完璧にこなしたかったのです。だから彩香ちゃんに行き着くまでにはとても長い時間がかかってしまいました。私は彼らに、私に対する微塵の疑念も抱かせたくはなかったのです。

 彩香ちゃんが私に興味を抱いたきっかけは、おそらく椿姫でしょう。これは一種の賭けでした。お父さんはおそらく自分の娘に読ませるでしょう。その確証はありました。しかし彩香ちゃんがそれに興味を持つか、またそれを気に入るかは、私には判りませんでした。

 賭けの結果は、ご存じの通りです。私は思わず苦笑してしまったものです。同じ人の娘というのは、やはり似るものなのかと思うと、笑えてくるのでした。

 ねえ、お父さん。私はあなたの娘でしたか?彩香ちゃんと私、どちらがお父さんにとって良い娘でしたか?今も私はあなたの娘ですか?私が求めたのはお父さんにとって完璧であることです。私は完全な娘を目指し、完璧な恋人を目指しました。そのどれか一つでも達成されたのかどうかは、私には判りません。どうか、完璧だったと言って下さい。非の打ち所がなかったと言って下さい。お父さんのその一言さえ聞けるのなら、私はこれから犯そうとする過ちを何一つ犯さないでしょう。完璧や完全なんてものは無いということくらい、私にだって解っています。頭で解っていても、素直に従えないのはなぜでしょうね。

 結局のところ、私は彩香ちゃんに勝ちたかったのです。会わなければよかったのに、私は彩香ちゃんと会うことを選びました。あるいは私が選んだのではないかも知れません。そういう決まりだったのかも知れない。それでも彼女に会うことを、私は確かに望んでいました。

 今から考えると、私は自分の価値の証明のために彼女の存在を利用したかったのでしょう。私は何と卑しい人間でしょうね。私の無意識からの願望は、彼女によって否定されました。自分の卑しさと浅ましさを、私は彼女によって自覚しました。だからこそ私は、今になって後悔などしているのです。どこまで愚かなのでしょう。

 私は明らかに彩香ちゃんに劣っています。それ故に後悔し、憎悪し、羨望し、苦悩します。私には彼女の美徳の中、備えるものは何一つありません。『お気に召すまま』の、オリヴァーのように。

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