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メガイラ  作者: 高村
2/16

2/西川志乃が父に宛てて書いた手紙

 お久しぶりです、お父さん。お元気でいらっしゃいましたでしょうか。

 私は何年も前からお父さんとお会いしよう思っていました。もうずっと前からです。そしてこれからお書きすることをお伝えしようと思っていたのです。それには時間がかかりました。私はお父さんにそのままこれをお伝えする訳にはいかなかったのです。

 具体的に申し上げますと、まず私はお父さんと今のような関係にならなければならなかったのです。これは、解って頂けますね?突然お宅にお伺いして、「お久しぶりですね、お父さん。覚えていらっしゃいますか?」と話し出す訳にはいきません。第一それでは順序がばらばらになってしまいます。それでは私の願いは叶わなかったでしょう。それから、私にはお父さんの居場所が分かりませんでした。私はお父さんをずっと探していたのです。やっと見つけた時、お父さんには新しい娘がいました。分かってはいたのですが、私には準備が足りませんでした。そして私は彼女の友人になり、あなたと会いました。紙に書いてしまうとたったこれだけのことですが、その為には長い時間が必要だったのです。

お父さん、お幸せでしたか?私と母のいない人生は、お幸せでしたか?

 母は幾度かの再婚と幾度かの離婚を繰り返し、年老いていきました。しかし変わらず美しい体を保っています。そして次第に薄い刃物のような人間になっていきました。今は、八歳年上のすてきな恋人と結婚したばかりです。

 私は、ご存じの通りです。お聞きになっているのでしょう?

 さて、今私が何をしようとしているのかは、お父さんにもおわかりでしょう。でも実のところ、私が何故こうしようと思ったのか、私自身にも解らないのです。不思議なものです。それなのに、私の思いは揺るいだことがありません。それもひとえに、お父さんへの思いの所為でしょう。

 私はずっと、お父さんを思い続けていたのです。お気付きになっていましたか?かつては家族として、今は恋人として、私はいつだってお父さんを愛しています。恋人というと語弊がありますね。でもそれ以外に、何と言えば私とお父さんの関係を的確に表現できるのでしょう?ですから、便宜的に恋人と言わせて頂くことにします。

 けれど、私のお父さんに対する感情は愛情だけではありません。私はずっと、貴方を呪っていました。憎いのです。私はしばしば、ベッドの中での戯れにお父さんの首を絞めましたね。あれは、悪戯なんかじゃありません。私は本心からお父さんの息を止めたかったのです。結局、私にはお父さんを殺すことはできませんでしたね。残念です。だって、お父さんを殺したらきっと私は苦しくて悲しくてお父さんの死体のとなりでそのまま気が狂ってしまうでしょう。それは不本意です。だから私はお父さんの安らかな寝顔を六条御息所のような表情で見つめていたのですよ。さしずめ葵上は彩香ちゃんでしょうね。

 ねえ、お父さん。私のこれからやろうとしていることを止めさせたいですか?お父さんにならできるかも知れませんね。でもお父さんはそんなことをしないでしょう。違いますか?お父さんは私を止めません。私には判るのです。当然ですね。私はお父さんの娘ですもの。

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