15/16
15/招待状と決意
もうこれ以上に憎むことも悲しむことも絶望することもないのではないだろうか。
私は、姉から届いた結婚式の招待状を手に、呆然としている。
西川志乃が、結婚するというのだ。
「ははは」
父は何だったのだろう。あの女にとって、父やその子は何なのだ。意味が分からない。
「はははは」
笑っているのは誰だろう。うるさい。
「ははははは」
「うるさいッ」
私の声だけが、燦燦と降る陽光に満ちた静かな部屋に響く。空しく谺する笑い声が、不意に西川志乃のものにすり替わる。
嗚呼、ここにも彼女はいるのか――。
彼女は世界だった。世界は彼女のものだった。だから彼女の存在は空気に、水に、ドアに、床に、すべてに潜んでいるのだろう。逃げても無駄なのだ。
「ふふふ」
だから私も彼女で、父も彼女なのだ。
会いに行こう。わたしの聡明で美しい姉に。
「そっか――ふふふふ」
彼女から逃れるには、彼女を殺さなくては。否、その前に、彼女の懺悔を聞かなくては意味がない。