日常2 私と馬鹿とお嬢様の自習
キーンコーンカーンコーン♪
キーンコーンカーンコーン♪
緩やかなチャイムが学校内に響き渡った。そう、全国全世界の高校生がこの音を聴くとテンションが下がるだろう。通称【魔の音楽】、一時間目の授業開始の合図だ。本当にテンション下がるな。私は学校の授業というものが好きではない。簡単に言おう。頭がよすぎてやっててつまらないのだ。全部簡単だから、私にとって授業は最早ただの手首の運動だ。漢字ドリルやってる時みたいな状況が8時間も続くのだ。これを地獄以外のなんと言うのか検討もつかない。やれやれ。あ、先生が来た。
「えー皆さん。本日の一時間目の現代文の授業ですが、桜先生が風邪でお休みなので、自習にします。そのかわり、静かにお願いしますよ。わかりましたね?」
え?嘘でしょ?本当に?なにこれ私の日頃のおこないがいいから?ありがとう神様!帰りに近所の神社よるか。うん。よろう。えーと、5円玉持ってたっけ?財布財布っと。
「トラちゃん!今日自習だよ!自習!やったね!きっとアッキーが毎日いい子にしてたからだよ!はらほら~誉めて誉めて!」
あぁそうか。この子と同じクラスだったんだ。最悪だ。これで平和な一時間を過ごそう計画が白紙になった。何してくれてんだよまったく。
「ねえ、せっかく自習になったんだしさ、お喋りしようよ!ミサりんとコッコも誘って!」
「心咲はいいけど、弧々亜はクラス違うでしょ。てか、宿題やったのか?終わったからお喋りしに来てるんだろうな?」
「じゃあミサりん呼んでくるね~」
逃げた。完全に聞いてて逃げたな。目がおよいでたぞ。宿題くらい自分でできるようになれよ。そんなんだからオール赤点とるんだよまったく。しかたない。暇だしつきあってやるか。
「眠そうねぇ。大丈夫?天虎ちゃん。おはよう」
「あはよう心咲。相変わらず言葉の順番変だね。おはようからだろそこは」
「あら?そうなの?ごめんなさい。気をつけるわね。それより、アッキーちゃんが宿題手伝ってって言ってたけど…」
「お喋りするんじゃなかったんかい!」
てか、やっぱり聞こえてたんじゃん!
「てなわけで!今から二人でアッキーの宿題を終わらせよう作戦を開始します。じゃあ、頑張ってね!トラちゃん&ミサりん」ニコっ!
「喜衣菜はやらないんかい!ふっざけるな喜衣菜がやるんだよ!ほら、教えてあげるからここ座れ…ってこら!逃げるな!」
逃げようとする喜衣菜の制服の襟を掴んで無理やり私の席に座らせる。心咲は心配そうに見守っていた。止めた方がいいのか何なのかわからないのだろう。乙女だなぁ。なんかこう、少女漫画にでてくる、perfectな女の子をそのまま現実世界に出したみたいな子だ。さっきもいったけど、ある程度完璧。お嬢様だからなのか、少し世間知らずなところと、日本語の文法がおかしなところを除けば完璧。
「あ、あの、その、制服掴むのは良くないと思うのですが…いや、ご、ごめんなさい!なんでもないです!アッキーちゃんが可哀想です!」
「わかったわかった。制服掴むのはやめる。けど、宿題は自分でやってもらうぞ。いいよな?喜衣菜?」
「わかったよ~。やるから!もうっ!馬鹿!」
え?何で今私、馬鹿って言われたの?意味不明。やっぱり馬鹿の言うことは理解できないな。てかうざい。ガムテープと縄ないかな?おとなしくさせたいんだけど…
「まぁまぁお二人、喧嘩はよくありませんよ。私もできる限りお手伝い致します。なのでそんなに睨み合わないでください」
どうやらはたから見たら私と喜衣菜の会話は喧嘩しているように聞こえるらしい。そんなつもりはないのだが…痛!足蹴るな阿呆!いや、馬鹿!
「ねー早く教えてよー!授業あと30分しかないよ?」
「誰のせいで20分も無駄になったと思ってるんだ馬鹿!わかったから宿題プリントだして!」
喜衣菜はガサガサ鞄をあさって中からグチャグチャになったプリントを一枚とりだした。おい、クリアファイル持ってないのかよ。無いなら無いで折って鞄の一番下に置くとかしてよ。それ作った先生や事務員さんが知ったら泣くよ?
「これだよね?よしっ!やろう!えーと…うん。なるほどなるほど。わかった!」
おっ?1問くらいはできるところがあったのか?そうそう。まずはチャレンジすることが大切だよね。馬鹿でも日本語話せるんだから、現代文の問題なら少なからず自力で解けるかも!
「何処がわかったんだ?」
「わからないってことがわかったよ!」
ごめんなさい。前言撤回。この子完璧なお馬鹿だった。ほんの一瞬でも自力で解けるかもなんて思った私が馬鹿でしたすいません反省しますごめんなさい。ほら、喜衣菜見てみろよ心咲の顔。わかりやすく目が丸くなってるぞ。1問目から賃回答だすからー。
「面白い答えですね。どの問題の答えなんですか?」
なん…だと?
「ん?どういうこと?何が?」
「え?あれ?あ、いえ、なんでもないです…」
なんてこった。心咲も多少お馬鹿なところがあるんだった。いや、彼女の場合は天然、と言うやつなのか?喜衣菜のノーマル馬鹿とは違うよね。うん。だって普通に成績良いもんね。うん。
「ねーわかんないよー!やっぱりアッキーには無理無理!難しすぎるよ!1問目の主人公の幸せは何ですかってどういう意味?上の文章読むのめんどくさいよ~」
「此方がめんどくさいわ!いいからさっさと本文読め!じゃないと始まらないだろ。」
「私なら、やはり飼い犬のダッシュとラブと遊んでいる時ですね。あの二人ったら、毎朝私を起こしに来てくれるんですよ?おかげで学校に遅刻せずにすみますわ。それに、抱きしめたときにくぅーんと鳴いて私のお顔をペロペロ舐めますの。もう、可愛いったら」
まぁ、そのFカップの大きな胸で抱きつかれたら苦しいだろうからな。鳴きたくなるよね。もしかしたら、嬉しくて鳴いているのか?どうでもいいか。うん。
「アッキーの幸せはねー!皆でこうしてお喋りしたり、遊んだりすることだよ!だって楽しいもん!家にいても親がうるさいだけだもん!」
…なんだよ。馬鹿だけど、たまにはいいこと言うじゃん。てか、私のこと嫌いじゃないんだ。こんなに怒ったり馬鹿にしたりしてるのに。ちょっとだけ、ほんのちょっと見直したかも。
「あら、嬉しいですアッキーちゃん!私もアッキーちゃんや天虎ちゃんと遊ぶ時、凄く楽しいですよ。そうですね、幸せです!」
「トラちゃんは?」
「ん?あ、まぁ、あれだな。嫌ではないな。うん。喜衣菜のこと、その、嫌いではないし…」
ヤバイ!なんか恥ずかしい!なんだこの微妙な空気感!ここは面接会場か!そして私は告白前の男子高校生か!いや、女子だけどさ!
「ほんと!?アッキーもトラちゃんのこと大好きだよ!」
そう言って喜衣菜は抱きついてきた。
「馬鹿!誰が大好きって言った!嫌いではないって言ったんだよ!そんな抱きつくな!座れって!ほら、宿題やるぞ!」
「もう照れちゃって~。顔真っ赤だよ?可愛い!トラちゃんもたまには女の子っぽいことするんだね。ベリーベリーキュートだよ!」
まずい、このままでは喜衣菜に弄られて残りの20分を無駄にしてしまう!頼む心咲!助けてくれ!目配せで伝わるか!?気づいて!あ、気づいてくれたみたいだ。
「あ、可愛いですよ!天虎ちゃん!」
違ーう!そうじゃなくて!喜衣菜どうにかしてほしいんだってば。もう。ああ、時間がどんどん無くなっていく…もうどうでもいいや。べつに私の宿題じゃないし。喜衣菜の宿題だし。とりあえず、この子ひっぺ返して粗大ゴミにしてだしとこう。そうしよう。
後日、喜衣菜は宿題をやっていなかったため放課後に補習をおこないました。めでたしめでたし。