第7話
岐司が九字を唱えだすと研次の頭に耳鳴りのような音が入ってきた。それは段々と大きくなり、スピーカーが放つハウリングに引けを取らないほど不快なものとなった。たまらず頭を抱えるとそれは止んだ。
ほっとして前を向き直すと証言台に何者かが立っていた。
それを見て研次は息を呑んだ。
目に映ったものは向こうが透けて見える半透明でありながら幼い頃の自分そのものだったからである。
「では始めましょうか・・」
「岐司さん、待ってください。それは・・」
「彼は貴方の良心です。ここでは常導神と呼びますが、彼は貴方の扱いに反映して様々な場面でその姿を変えていきます。そして今の貴方が覚えていないこともすべて記録しています。
これほどの証人はいないでしょう。試しに何か質問されますか?」
ほんの一瞬でも手番を握ったと思った研次はその浅はかさを嘆きたくなった。
前述の通りならあれは自分の良心・・よく漫画の表現にある自分の中の天使と悪魔なら天使・・これがそのまま当てはまるならば自分に分は一つもない。
何か質問するにしてもこれから全てが明るみに出るなら不利しか感じず、研次それを辞退した。
少年時代のある程度までの証言はほのぼのとしたエピソードもあり、淡々と進んでいった。
やがて両親が離婚し、施設に預けられてから窃盗や弱い者虐めなど 彼は素行は悪くなってゆく。常導神はそれを諫めたと付け加える。
『聞こえた覚えはねぇよ!それに家庭環境の悪さにも原因はあるさ!』
時折毒づく研次に坊鬼がぴくりと反応し、彼を睨む。その度に彼は心根の矯正を余儀なくさせられた。
そんな状況下にありながらも怯まぬよう気を保つ研次だったが、やがて常導神の声に呻くようなものが混じった時、彼の異変に気づいた。