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over and over  作者: 富士江 三蔵
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それから

それから研次は岐士の居る世界へと戻った。

岐士と再び対面し、彼がねぎらいの言葉をかけると研次は堰を切ったように号泣した。

それにはゴキブリとして生きた境遇の辛さと不可能に思えたそれからの解放を実感した安堵が混じっていた。


元々、真知子の運命に暴漢との縁など存在しない。

それは研次が我がままを通し、目的を達せずにぐすぐずとしていたために彼の罪業が賊を呼び寄せたのだ。


岐士の懸念していた真知子が辛い思いをすることになるかもしれないと言ったのはこの事だった。

それが結果として研次自身を救う呼び水になったのだが岐士はそれを敢えて話さなかった。

その経験で彼は悔い改める気持ちを掴み、やっと自分の良心に耳を傾けた。

岐士にはそれが何より喜ばしく、もう細かい事を言う段階ではない。


“士別れて三日、即ち刮目して相待すべし”


まさにその言葉の如く研次の心根は成長したと判断したからだ。

転生を前にその心持ちがあれば彼はたとえ罪を犯しても反省できる生き方が出来るだろう。今の気持ちが転生した性格に反映されるのだ。

それに安心した岐士は親心からほろほろと涙を流した。


真知子には気の毒な経験をさせたが、いずれ彼女がこの世界に戻った時に一人の人間の成長に自分が役立てたと知れば彼女はきっと赦してくれるだろう。

そして既に徳の高い真知子だが、今回の件でさらに彼女はそれを高めたにちがいない。


坊鬼も岐士の気持ちを連動させて男泣きに泣いた。

さめざめとした雰囲気が一頻ひとしきり続いた後、口を開いたのは研次だった。

彼はここに来て初めて転生に前向きな姿勢を見せた。


彼が望んだのは


“今までの記憶を失ってまた始まる次の人生で自分が間違いを犯しても常導神の声に気づける繊細な神経を持ち続けたい”


それだけだった。


次の人生にいてそれは過酷な環境に輪をかけることにもなりかねないが、それでも人生を全うすれば彼の徳は目を見張るものとなるだろう。

岐士はそれを確認したが研次の目に迷いはなかった。


そして今、研次はもう研次という名前ではない。

彼は根底に優しい気持ちを持った人間として過酷な環境で色々なことにつまずき、間違え、憤り、耐え、反省を繰り返しながらも懸命に日々を生きている。


―了―


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