第21話
呼び鈴の音が部屋中に響く。
一瞬、ぴくりとだけ動き、研次はサイドボードの地面に近い壁面でじっと危険度を測る。
流し台の下に居れば危険は先ずないのだが、真知子がリビングで過ごす時に隠れていると岐士とのやりとりに苦しめられるためにそれが緩和されながら死角となる、危険の回避に適したこの場所が研次の定位置となっていた。
当初に比べれば判断能力は格段に上り、適時に敏速な行動がとれるようになってきていた。
皮肉なことに人間的な部分を失っていく毎にゴキブリとして適合していく気がする。歓迎するべき事態ではないがゴキブリとしての生活は板についてきた。
同じ部屋内の別世界では迎えに出た足音が複数になって戻ってくる。
「急だからびっくりしたわ。」
「だって急に飲み会決まっちゃったんだもん・・」
「こんな寒い雨の日に飲み会とはねぇ・・まぁ小降りなのが救いね。」
テーブルにはお茶の用意が整ってあり、背もたれに上着を置き、亜紀が座る。
真知子は紅茶を淹れてから席についた。
「ねぇ、チコ姉、内場さんとはどうなの?」
「ん、別に・・普通よ・・」
真知子はその性格から交遊関係が広い。
仕事柄もあるがそれ以外でも美容師仲間との交流も続いている。
男女別け隔てなく接する彼女に勘違いしそうな男もいるが研次の一件もあって彼女はガードが固くなり、あしらいも上手かった。
そのなかで気になる相手がバーのマスターである内場だった。
今はラインでの繋がりだけだが互いに盛り上がりつつある。
一度店に連れて行ったこともあり、亜紀も内場とは顔見知りだった。
研次もその存在をここで暮らすうちに知ることになった。
時間の経過を知らない彼は一時期ひどく憤慨し、嫉妬に駆られたがその状況を作ったのも自分である。
ただ、今の研次はそれを引きずりながらも美智枝にすら詫びたいほど後悔と懺悔を抱えながら死を恐れる日々を重ねている。
亜紀の存在は無論知っていたが終生対面することがなかった研次はこんな形で声を聞くとは思いもしなかった。
「じゃあ、そろそろ行くね。帰ったら一緒に飲も。」
帰る前にメールを寄越すよう伝えて真知子は亜紀を送りだした。




