第19話
お気に入りの賑やかな楽曲が静かな寝室に響く。
完全に遮光された部屋で真知子はそれを嫌がるように音源の反対側に寝返りを打ち、掛け布団で頭を隠す。
先方の意志は固いらしく、スマホから流れる曲は途切れることなくサビに入っていく。
『ん・・もう・・誰?』
根負けした真知子は体をそのままにもぞもぞと手を伸ばし、ベッドの枕元にある棚を探った。
暗がりに光る画面には亜紀の名前が記されている。
寝惚け眼の真知子は狙いを定めて人差し指で受話を押した。
「おはよ―!チコ姉!ごめん、寝てた?」
いつも通りの元気な声は寝起きの耳にはそぐわない。
「今起きた・・なに?こんな時間に・・」
そう言いながらも真知子は現在時刻を知らない。彼女は一旦ベッドに座ってから立ち上がり、廊下を経由してリビングキッチンへとゆっくりとした足取りで移動する。
「あのね、今日、そっちの近くで飲み会があるから泊めてほしいの。」
「え!?今日!?」
「予定あった?・・もしかしてデートとか・・」
「バッカ・・そんなのないわよ。でも明日仕事じゃないの?」
「えへへ~。この前休日出勤したから代休なんだ~。」
真知子はちらりとカレンダーを見て起き抜けの脳に正しい日付けを入力する。
明日は第二月曜だ。
そして今日は・・
『あ・・研次の誕生日・・』
忘れるべき男ではあるが真知子は覚えやすい研次の誕生日を記憶からまだ消せずにいる。
「ゾロ目なんだ。すごいだろ?」
「すごいのはその日に産んでくれたお母さんじゃない。」
そんな過去の会話が真知子の脳裏を駆け抜ける。
『やだ・・思い出しちゃったじゃない。』
「チコ姉、どうかした?」
その声に真知子は我に返り、何でもないと会話を続けた。