第1話
気がつけば彼は見たことのない風景を目にして立っていた。
濃い闇が支配するその場所の空には月も星もなく、舗装されていない半径50メートルほどの広場の中央には櫓が高く組まれていて、最上部では炎が天を目指さんとばかりに燃え盛っている。
『あぁ、死後の世界はあるんだな・・』
羽黒研次は右手で首を軽く撫で、違和感のないことを確認すると疑うことなくこれを受け入れた。
なぜなら彼の記憶は自殺したところまでだったからである。
もしこれが夢であっても現実に帰れば首を括った状態に戻ってしまう。彼は戻る場所を自ら閉じたのだからこれからのことは全てを肯定しなければならない。
橙色に照らされた辺りを見回すとぽつぽつと人の姿が確認できた。だが、彼らの中に談笑する者はおろか、動きのある者も殆どいない。
彼らは皆、自分と同じような襤褸を纏い、その大部分は森の中を切り拓いたようなこの広場の外側に近い場所で体育座りのような体勢でじっと頭を垂れている。
それに加えて辺りの暗さも手伝って性別も判然としない。
『ここはなんだ?どうやら地獄というわけでもなさそうだが・・さて、これからどうしたらいいんだ・・』
誰かに話しかけたいが彼らの持つ雰囲気がそれを阻み、どうしても気が進まない。
不安に駆られた研次は動きのある者に目を移すが、彼もまた、俯いたままゾンビのような重い足取りで歩き、座っている者達と同様に精気を感じなかった。
その予想進路を目で先回りすると木々の切れ間があり、どうやらそこからは道になっていそうだった。
漸く進路らしきものの手掛かりを得た研次は足早にそこへ向かった。
左右に篝火が置かれ、小石で覆われた道を踏みしめながら数人のゾンビもどきを追い抜いてしばらく行くと先の明りが視界に入る。目的地の近さを実感すると彼の足取りは少し早くなった。