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タッチネス

作者: 真崎一等兵
掲載日:2017/10/25

桜咲く4月。

黄星学園は入学式を終え、新入部員獲得に向けた勧誘活動でどこもかしこも活気づいていた。

その脇を駆け足で過ぎ行く野球部の少年は沼田といった。昨年秋よりキャプテンの任に着いている。

小柄だが、よく声を出し、黙々と努力する姿は人の胸を打つ何かがあった。

沼田はグラウンドに着くと集合の号令を出した。

「本日より1年が合流する。」

部員を見つめながら沼田は言った。

2・3年はわくわくしている様子であった。口元を固く結んでいるが、目尻は下がりきったままだった。

そこへグラウンドへ一礼して入ってくる一団があった。

「ちょうど来たみたいだな。1年生はそのままこっちに来てくれ。」

気合いの入った返事をして8名が部員の前へ出てきた。緊張のためか非常に表情が硬い。

(初々しいな、前は俺もこんなだったなあ)

沼田は思わず緩みそうになる頬を強引に引き締める。

「じゃあ、右の子から自己紹介をして。」

1年生達は順番に名前と出身中学、そしてポジションを言っていく。

県立校黄星学園は、ほとんどは地元の中学出身である。先輩後輩が顔見知りであることも多い。

「山田光太郎です、青原中学出身でポジションはセカンドです。沼田先輩には中学時代にもお世話になりました。中学時代は名前が近いのもあってドカベンって呼ばれてしまいました。」

小太りでがっちりとした山田が挨拶をした。

(前から思っていたが、何でこいつキャッチャーやらないんだろ。)

「次・・・!?」

最後の二人は同じ体型、同じ顔をしていた。

思わず沼田は二度見してしまった。

「白鳥中学出身の杉山達明、ポジションはピッチャーです。」

「白鳥中学出身の杉山克明、ポジションはピッチャーです。」

二人が続けざまに挨拶した。部員は沼田含め面食らっていた。

「双子なのか?」

沼田は何とか正気を保ってたずねる。もちろん返事はイェスであり、声はシンクロしていた。

「まあ、そりゃあ、見りゃわかるってもんだわな。たっちゃんとかっちゃんは、どっちがお兄ちゃん?」

沼田は思わず砕けた話方になっていた。それほど野球部員にとって衝撃なのだ。

双子が同じ野球部に入ることは。

(タッ○じゃん。)

部員の心の声は双子でもないがシンクロしていた。

「・・・達明が兄貴で、僕が弟です。」

(タッ○じゃん。)

「そっか、やっぱり?かっちゃんは車に気を付けろよ。たっちゃんは野球やる前はスポーツとかやってた?」

「小学生のときはボクシングやってました。」

(タッ○じゃん!)

「家はどこ?」

「グランドから見えるあの家です。」

克明がすぐ近くに建つ一軒家を指差す。

「だよね、その隣の家に幼馴染みとかいる?」

このあたりから他の部員の沼田を静止させようとする声は上がっていたが、沼田はもう、止まらなかった。

「ああ、同級生の女の子が1人。この学校に入学しましたよ。」

(タッ○じゃん!!)

「まあ、わかってるよ。その子は新体操部?」

「あれ?キャプテン美奈子のこと知ってるんですか?」

「タッ○じゃぁぁん!!!」

沼田は叫んでいた。

「美奈子を甲子園につれてって、てかぁ!」

「キャプテンを抑えろ!」

3人の部員に拘束され沼田は落ち着きを取り戻した。杉山兄弟は不思議なものを見る目で沼田を見ていた。

「・・・会わせてくださいよ。」

沼田は敬語で言った。

やめろ!プライドはないのか!

そんな部員達の野次などお構い無しに兄弟へ迫る。

「美奈子ちゃんに合わせてくださいよ。」

口を半開きにして、瞳孔の開いた、半狂乱の相手を前に、杉山兄弟の選択肢は諾のみであった。


杉山兄弟と沼田は体育館の脇に来た。

その後ろには沼田の暴走を抑える名目で、部員全員が1年生を含め付いてきていた。

総勢30名ほどである。

体育館の壁際の、下側の窓に沼田を含めた30名がきれいに横並びになっていた。

「どのこなんですか?そろそろ教えてくださいよ。」

沼田はまだ敬語のままだ。

「左奥のです。」

達明が指差したさきに、1人だけ演技のレベルが違う少女がいた。

「あんた達なにしてんの!?」

野球部員の覗きに気が付いた新体操部の上級生が声をあげた。

そして、美奈子もこちらを振り向いた。

沼田は思わず唾を飲み、つかの間呼吸をするのを忘れた。

振り向いた美奈子は、スラーっと背が低く、肌は透き通るように黒かった。

「ビール瓶みたいな女だな」

「沼田先輩もそう思いますか?」

おーい、と杉山兄弟は美奈子に声をかけた。

駆け寄る美奈子。近くで見るとなおのこと醜女である。

「たっちゃんとかっちゃん!来てたの?」

酒でやけたような声は地獄の怪鳥のゲップを聞かされたと錯覚するほどだ。

沼田はそっと、窓から顔を話した。

「杉山兄弟、帰るぞ!」

沼田と部員達は隊列を組み駆け足でグラウンドへ戻っていった。

掛け声無しで部員の足並みは揃った。なぜか?

部員の心はシンクロしていたのだ。

(そっか、ブスなのか)

その夏、黄星学園野球部は一回戦で消えた。

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