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女の子の正体

間が空いてしまい、すみません。

その視線は、さっきのアンナ様のものとよく似ていた。まさしく、頭のてっぺんからつま先までをまじまじと見てきたのだ。そして、その後には顔を見つめられた。

何でこんなにも見られているのか、訳が分からない。けれど、その疑問を尋ねる事は出来なかった。だって、使用人である私がお客様に話し掛ける訳にはいかないからだ。


私は頭の中を『?』でいっぱいにしながらも、お茶の用意をしていく。けれど、どうにもやり難い。それは、私の一挙一動を見逃すまいとしているかのような女の子の視線を感じるからだ。


ーうう〜、こんなに見られてると、やり難いよ〜。


内心、冷や汗をかきまくりである。私は必死に表情に出さないように気をつけているけれど、それが上手くいっているかどうか自分でも自信がない。引きつった顔をしてない事を祈る。


そうこうしているうちに、なんとかお茶の用意が出来たから、次はそれを出していく。

ここはでは何とかやれた。けれど、本当の本番はここからだ。お茶を出す時にこぼしたら最悪。テーブルに置く時にガシャンと音を立ててしまうのも、ダメ。

まだ気を抜く訳にはいかない。


そんな事を考えた私は、気負い過ぎていたのかもしれない。いや、気を抜いちゃいけないのは確かなんだけどね。

だけど、この時、私は自分で自分を追い込んでいたのだろう。

ソーサーを持ち上げた自分の手が震えているのが分かったのだ。そして、その震えてる自分の手を見て、更に緊張が高まった。緊張している事が目に見えて分かった事で、もっと緊張してしまったのだ。

ああ、何という悪循環。


ーひぃーーー、こういう時、どうしたら良いんだっけ!あっ!手のひらに『人』!!って、今はお皿持ってるから無理!!もう、こうなったら腹をくくるしかない!!


緊張している事を認めて、受け入れて、そしてそれを飲み込む!

私は目立たないようにこっそり鼻から息を吸って吐き出した。


ーうん、少しはマシになった気がする。


気休めかもしれないけれど、人間の思い込みの力ってすごいからね。『気がする』って思えただけでも十分だ。

私はまだ少し震えてる手に全神経を集中させて、そっとソーサーをテーブルに置いた。


ー良かった!音を立てずに置けた!


ソーサーが置けたら、次はスプーン。そして、その次がお茶が入ったティーカップの番だ。こっちの方が重要だ。まだ緊張はしているけれど、ソーサーが上手く置けたから、最初よりは震えがマシになっている。今なら大丈夫そうだ。


ソーサーの時よりもそうっと持ち上げて、そうっと下ろしていく。そして、何とか無事置く事が出来た。


ーああ、緊張したぁー。


お茶受けのクッキーやお砂糖なんかは、私がお茶の用意をしている間にアンナ様が置いていてくれたから、私の一番の役目はこれで終わりだ。


ーはぁーーーー、無事終わって良かったぁーーー。


この後は、アンナ様にお任せである。肩の荷が下りたよ。


テーブルからそっと離れて壁際まで下がると、私はそっと女の子の様子を伺った。女の子は私をまだ見ていたようだった。けれど、すぐにその視線をティーカップに移した。どうやら、私を見るのはお終いのようだ。良かった良かった。

見られてるのって、落ち着かないからね。


今、私と入れ替わってテーブルの側にはアンナ様がいる。


「アンナ」


女の子がアンナ様を見上げて名前を呼んだ。その時。


バタァーーーン!!!


すごい音を立てて、ドアが開いた。


「キャッ!」

「!?」


ー何!?何事!?


ものすごくびっくりした。お役御免でほっとしてたところにこの不意打ち。心臓が口から飛び出るかと思ったよ。もちろん心臓は飛び出なかったけど、心臓だけじゃなくて悲鳴も出ないで良かった。

お客様の前で悲鳴を上げてたら、アンナ様に叱られるかもしれないからね。

でも、こんな時に出ちゃう悲鳴は仕方がないと思う。


ーそれで、私をこんなに驚かせた諸悪の根源は何なんだ!まったくもう!


いささか八つ当たり気味に苛立ちを込めてドアに目をやると、そこにはややうつむきながら肩で息をしているフィオ様の姿があった。


ーフィオ様!?


こんな慌てた様子のフィオ様の姿は初めて見る。いつも優雅な雰囲気があるお方だから、余計に驚いた。けれど、よくよく考えると、このお屋敷でドアを無断で勢いよく開けるなんて非常識な真似が出来るのは、フィオ様しかいないよね。


「ナ〜ディ〜ア〜」


そのフィオ様が地を這うような低い声でそう言った。


ーフィオ様のこんな怖い声、初めて聞いたよ!それに、この子はナーディアちゃんって言うのかー。


珍しいフィオ様の様子に私が驚いたり、判明した女の子の名前に『ほうほう、ナーディアっていうお名前なんですね』と思ったりしていると、名前を呼ばれた当の本人であるナーディアちゃんは、ケロッとした調子で言った。


「あら、意外と早かったですね、お兄様」


ーお、お、お兄様ぁーーーーー!!!そうか、この子は、フィオ様の妹さんだったのかぁーーー!!!

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