春になりました。
春。
私がこちらに来て、早いもので1年が経った。経ってしまった。
日本に帰る手立ては全く見つかってない。それに、まだヤマタイト国にも行けていないのだ。
けど、旅費は結構貯まってきた。それは、私が普通に働いて稼いだお金と開発して稼いだお金があるから。今まで水筒とスポーツドリンク、そしてピーラーを売り出したんだけど、それらが順調に売れているんだ。良かったー。
中でも1番売れているのは、ピーラーだ!ピーラーの発売日当日、私はドキドキと不安にしてた。リオン君も。でも、その不安はすぐになくなった。
仕事が終わってから開発室に行った私は、そこでリオン君と一緒に『落ち着かない』と言ってたんだけど、そこにオルランドさんが知らせを持ってやって来たのだ。
ピーラーの売れ行きの知らせを。
「ここにいると思いました。連絡が来ましたよ。ピーラーについての」
オルランドさんがそう言ったのを聞いた瞬間、私とリオン君の口から思わず悲壮な声が漏れた。
「ひゃあ〜」
「うわー」
これは、『ついにこの時が来てしまった』という嘆きの声だ。結果が気になるけど、聞きたくないという二律背反。
「何ですか?その反応は」
「いや、あの、聞くのが怖くて、ですね」
「すみません。つい」
私達の反応を訝しんでいたオルランドさんに聞かれて、しどろもどろになったり謝ったりする私達。
それに対してオルランドは『そうですか』と言うだけだった。オルランドさんは、1回『コホン』と小さく咳払いをすると、再び私達に向かって口を開いた。
「それで、ピーラーですが」
オルランドさんはここで1回止めて、私とリオン君を交互に見た。そして、おもむろに口を開いた。
「売れ行きは好調だそうですよ」
「ぃやったぁーーーーーー!!!」
「あー、良かったー」
売れ行き好調の知らせに喜んだのは私で、リオン君はほっとしていた。
そんな感じで、ピーラーの売れ行きが良かったから、私の収入もアップしたのでした!やったねー!
もうそろそろヤマタイト国に行ってみても良いかな?
今度、フィオ様に相談してみようかな?
あと、新商品開発についても。しばらくはリオン君がピーラー作りに忙しくしてたから、冬に新商品の開発はしなかったんだよねー。でも、ピーラーの売れ行きも落ち着いて来たから、そろそろ新しく開発しても大丈夫かもしれない。
次はかねてから言ってたスライサーが良いかなー?他に何かあるかなー?
料理を作るのもアリかなー?
和食は難しいとしても、普通の洋食は作れると思うんだよねー。ハンバーグにグラタン、カルボナーラのスパゲッティとかね。
あっ!洋食じゃないけど、ラーメンはどうかな?醤油や味噌はないけど、豚骨スープなら出来ないかなー?あ〜、ラーメン食べたい!!
話は変わるけど、料理と言えば、私、厨房で少し働かせて貰える事になりましたー!!!パンパカパーン!!!
今までの仕事ぶりとピーラーが評価されたみたい。やったねー!!!
そんな訳で、私は今、厨房で皮剥きに勤しんでいるのでした。
厨房で働ける事になったとは言え、いきなり最初から調理に携われる訳じゃない。やっぱり最初は下働きからである。私は皮剥き以外だと野菜とか果物の水洗いをしている。
今、厨房の裏口の所でじゃがいもの皮剥きをしていると、外からガヤガヤとした声が聞こえてきた。
「何だろう?」
私がここに来てから、こんな事は今までなかった。なので、何か普通じゃない事が起きている事は分かる。
何が起きているのか気になったから、私は手にしていたピーラーとじゃがいもを置くと、エプロンで手を拭いて立ち上がった。
そして、そうっと声のしている方へ歩いていく。
「だからー、別に良いじゃないの!」
「しかし。ですから、旦那様からは何も伺っておりませんし」
「あら、何も聞いてないのは仕方がないわよ。だって、何も言ってないもの!」
何やら言い合いをしている声が聞こえる。1人は声の感じからしてオルランドさんだと思う。だとしたら、もう1人は誰だろう?




