働きたい
「フィオレンツォさん…」
金髪さん、もといフィオレンツォさんが部屋から出て行った後、名前をこっそり呼んでみる。が、
「言いづらい…」
噛みそう。というか、舌も噛みそうだ。それは痛い!嫌だ!
そうだ!!フィオさんと呼ぼう!
流石に本人や周囲の人に向かってフィオさん呼びは出来ないけど、心の中でこっそり呼ぶのは許して貰いたい。じゃないと舌を噛んじゃう。それは嫌なんです。切実に。
あっ!それよりもフィオ様が良いかな!
恩人だし、高貴な感じだから、フィオ様にしよう。そうしよう。
よーし、フィオ様に決定!!
金髪さんことフィオ様の呼び名を決めた私は、ベッドに寝転びながら、これからの事を考えた。まず、元の世界に、日本に戻る方法があるのかを調べたい。
可能性を考えるなら、私がまた死にそうな目にあえば、お守りが発動して帰れるかもしれない。
ただ、発動しなかった時のリスクが高すぎる。発動しないで、そのまま死んじゃったらと考えると、これは最終手段として取って置くのが良かろう。
だとすると、他に方法がないか、私以外に異世界から来た人がいないかを過去も含めて調べたい。
月の天女が、私と同様に異世界から来た人っていう可能性はないだろうか。ならば、月の天女の話がある国に行ってみよう。
ー今はお金がないから無理だけど…。
じゃあ、お金を稼がないと!稼ぐには働かないとならない!
けど、私はここの事が全然分からないし、常識もしきたりも分からない中で生活するのは大変そう。
だとしたら、ここはやっぱりフィオ様にお願いするしかない。
ここで働かせて下さいって。
これからの方針が決まったら、眠たくなった。
ふぁ、と大きいあくびをする。そして、目を閉じた。
☆☆☆☆☆
「ん〜」
思いっきり伸びると、身体の節々が痛んだ。丸まって寝てたから、身体が強張ってたみたい。
私はベッドから降りると、まず屈伸をしてから後ろにのけ反った。
「ふぅ」
ーよし、良い感じに身体がほぐれた。
目が覚めた時には、一瞬ここがどこだか分からなくてパニックになりかけたが、もう大丈夫。軽く身体を動かして、頭もシャッキリした。
それにしても、寝過ぎたかもしれない。もう日が暮れはじめている。
ーこのままだと、夜眠れないかも。それは困るな。
ここで眠くなるまで夜更かしするにしても、ネットは通じないし、持っている本ときたら数学の教科書だけ。
ー数学の勉強しちゃう?いや、やっぱりそれは嫌だなぁ。
わざわざ苦手な数学を勉強する事ないか。
はぁー、それよりお腹空いたかも。そういえば、転移する前にお弁当を食べたのが最後だわ。
今まではそれどころじゃなかったから身体も空腹を訴えなかったけど、ちょっと落ち着いた今、空腹を感じるようになった。
ー執事さんを呼んで、ご飯をお願いしよう。
サイドテーブルに置いてあったベルを鳴らす。
チリンチリンと綺麗な音が響いた。けど、
ーちゃんと聞こえたかな?大丈夫かな?
聞こえたかどうか心配になる。
そんなすぐには来ないだろうからなぁ。もう少し待っても来なかったら、部屋から呼んでみようかな。
心配して悩んでいると、ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
ー良かったぁ。ちゃんと聞こえたんだ。
安心した。
「失礼致します。ご用件をお伺い致します」
現れた執事さんは、フィオ様と一緒にいた茶髪さんだった。
ーやっぱりこの人が執事さんだったか。名前は確かオルランドさん。
「あの、お腹が空いたので何か食べる物を頂きたいです」
「かしこまりました。すぐにお食事をご用意致します。こちらにお持ち致しますので、少々お待ち下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
どうやらこの部屋で食べるらしい。
良かった。いきなりフィオ様の家族やこのお屋敷で働いている人達と会ったりしたら困るもんね。何て挨拶したら良いか分からないし。
それにしても、何もしてないのに食事をお願いするのは気が引けるな。でも、今はお願いするしかない。
ーああ、早く働きたいな。じゃないと、落ち着かないや。
その後、しばらくしてオルランドさんが料理と共に部屋に現れると、部屋の中に料理の良い匂いが広がった。美味しそう。
頂いた料理は、流石お金持ちの家だと思うくらい、美味しかった。
ーはぁー、美味しかった。満足。満腹。
家族と一緒に食べないご飯は淋しかったけど、料理は美味しかったから良かった。
その後は、空の食器を片付けに来てくれたオルランドさんに食事のお礼を言ったり、お手洗いの場所を聞いたりしてみた。お手洗い、これ大事。
あと、パジャマを借りられないかお願いした。制服で寝るのはちょっと憚られるからね。
ーあーあ、体育があったら体操服とジャージがあったのになぁ。なくって残念。
ジャージに想いを馳せていると、ドアがノックされた。オルランドさんがパジャマを持って来てくれたのかも。
だけど返事をすると、オルランドさんではない人の声が聞こえた。
「私だ。フィオレンツォだ。話しがしたいのだが、入っても良いか?」