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リオン君は癒し系

鍛治職人のリオン君は、このお屋敷に住み込みで働く事になっている。初顔合わせから1週間が経ったけど、リオン君はまだまだお屋敷に慣れるのに大変そうだ。

高そうな置物や絵の側を通る度に、そぉっと歩いているのが面白い。私もここで働き始めた時は、あんな感じだったのかもしれないなー。


そんなリオン君は、もう成人している18歳。私の本当の歳よりも2歳歳上だし、この国において成人してから3年が過ぎているけれど、リオン『君』と呼びたくなるようなお人だ。

いや、実際にそう呼んでるんだけどね。


リオン君は、最初の印象そのままに、柔らかい雰囲気のある物腰の柔らかいお人なのだ。つまり、優しくて包容力がある癒し系という事である。

私は最初、リオン『さん』と呼んでいた。だけど、『何だかしっくりこないなー』と思っていた。そんな時、ふとした拍子にリオン『君』と呼んでしまったのだ。私は慌てて謝罪したんだけど、リオン君は『アハハ、別にリオン君で良いよー』と言ってくれたし、私もしっくりきたから、それ以降はリオン『君』と呼んでいる。


リオン君は、『君』付けで呼びたくなる感じなんだよねー。決してリオン君をなめている訳ではない。ただ、親しみを感じるのだ。うーん、懐きたくなる感じ?


そんなフワフワした優しいリオン君だけど、『才能がある』っていうフィオ様のお言葉通りの才能の持ち主だった。私が保温保冷の水筒の事を少し話しただけなのに、すぐに『なるほどなー。保温保冷って事は、温度の変化が少ないって事だよね。温度を保つには、あれをこうしたら良いのかな?うーん、実際に作って確かめないと分からないなー』って言っていた。

よく私のあやふやなあれだけの説明で理解出来たものだ。頭の回転が速いんだろうなー。羨ましい。


試作品を作るにあたって、リオン君とフィオ様は『あれをこうしたら、こうなるのではないか』とか『こうしてみたらどうでしょうか?』とあれこれ言い合っていた。

(はた)から見てると、2人はとても楽しそうで、とても気が合ってるようだった。きっとオルランドさんは、そういう点も考えてリオン君にお願いしたのだろう。

リオン君の鍛治職人としての才能はまだよく分からないけど、発明家の才能はあると思うよ。うんうん。良い事だ。


だけど、才能があるっていう事は良い事だけじゃなくて悪い面もあったりするよね。リオン君がこうして私達に協力してくれる事になったのも、その悪い面があったからなんだ。

話を聞く事によると。


☆☆☆☆☆


「ねえ、リオン君はどうして私達に協力してくれる事になったの?」

「それは、ここの待遇が良いからと師匠から薦められたからなんだ」

「へー、そうなんだー」

「まあ、体良く追い出されたって事なんだけどね」


リオン君が自嘲気味に言った事に私は驚いた。


「ええーーー!?何それ。本当に?」

「うん、多分」

「多分って、師匠さんからは何も聞いてないの?」

「聞いてないし、聞けないよ。普通、『ボクを追い出すんですか?』なんて聞けないよ」


リオン君の言う事は最もだね。


「まあ、聞けないね」

「だろう?」

「師匠さんの真意が分からないから、私には何とも言えないけど、リオン君が『追い出された』って感じたって事は、何か理由があるんでしょう?」


私が『教えて』ってお願いすると、リオン君は躊躇いがちに口を開いた。


「ボクには兄弟子がいたんだけど、兄弟子はボクよりも、その…腕が立たないんだ」

「なるほど。それで、才能があるリオン君を目の敵にしてた、とか?」

「そう!そうなんだ!」


私が言い当てた事に、リオン君は嬉しくなったようだった。さっきまで暗い顔をしてたのに、今はちょっと明るい顔をしている。


「それで、工房の雰囲気が悪くなっちゃって。ついに師匠がボクを追い出したって訳さ。工房に、師匠にボクは必要なかったんだよ」


リオン君の言う事に、私は少し考えた。だって『腕の立つ職人を追い出すなんて、あるのかな?』って思うから。

本人の素行が悪いならともかく、目の前のリオン君は素行は悪くないと思うし。それに、リオン君より腕が落ちる兄弟子を優遇するのは何で?


「リオン君さ〜、本当のところは師匠さんに聞いてみないと分からないけど、こう考えてみるのはどうかな?もしかしたら師匠さんにも何か事情があるのかもしれないって」

「事情?」

「うん。師匠さんは、兄弟子がリオン君より先に弟子になったっていうだけで優遇するような人なのかな?」

「いいや、師匠はそんな事しない人だ」

「そっかぁ。それを聞いて安心したよ。師匠さんの人を見る目は曇ってないんだろうなってね」


私がそう言うと、リオン君が頷いた。


「なるほど、そうだね」

「うん。それなら、兄弟子には優遇される事情があるのかもしれないよ。例えば、良い家の息子だとか、師匠さんの娘さんと恋仲で将来を誓い合ってるとか、師匠さんの弱みを握ってるとかね」

「うーん、そんな事あるかなぁ?」

「あるかないかは分からないけどさ。でも、こういう事を想像する事で、思い込みだけで悪く考えるのは止めておこうかなって思えない?」

「……ちょっと思える」

「良かったぁー!でも、それよりも良かったのは、こうしてリオン君と出会えた事だよ!リオン君は辛い思いをしたから、こんな事を言うのは申し訳ないけどね。でも、師匠さんには感謝だよ。リオン君に薦めてくれてありがとうってね!リオン君に出会えて良かった!リオン君、協力してくれてありがとね!」

「…ルーナちゃん……」


☆☆☆☆☆


こんな事があり、私はリオン君の事情を知ったのであった。


ーこれから一緒に頑張ろうね、リオン君!兄弟子を見返してやろー!

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