鍛冶職人さん
開発会議の数日後、オルランドさんから協力してくれる鍛冶職人さんが見つかった事を教えて貰った。良かったー、無事見つかって。なかなか見つからなかったみたいだから、安心したよ。
そして、今日、ついにその鍛冶職人さんと顔合わせをする。どんな人かなー?ドキドキするよー。
変な人じゃないと良いんだけど。まあ、オルランドさんが、フィオ様の前に変な人を連れて来るはずがないから、大丈夫だと思うけどね。
「フィオ様は、鍛冶職人の方がどんな方か聞いてますか?」
「ん?まあ、少しは」
私とフィオ様は、今、開発室の中でオルランドさんが鍛冶職人さんを連れて来てくれるのを待っている状態だ。なので、フィオ様に鍛冶職人さんについて聞いてみる事にした。
どうやらフィオ様はあらかじめ鍛冶職人さんについて聞いているらしい。
「どんな方なのですか?」
「そうだなー。才能はあるが、世渡り下手だと聞いている」
「へ、へえー。そうなのですね。なるほど、なるほど」
私は鍛冶職人さんの人柄が知りたかったのだけど、違う情報を得る事になった。才能があるのは喜ばしいけど、世渡り下手とは大変だなー。この世界では、日本よりもコネが大事だからねー。コネがなくて大変な思いをしたのかもしれないね。
私がまだ見も知らぬ鍛冶職人さんに同情していると、開発室のドアがノックされた。
ー来た!!
「入れ」
「失礼致します」
「失礼します」
オルランドさんの後に続いて部屋に入って来たのは、物腰の柔らかい雰囲気の青年だった。薄い茶色の髪がふわふわと揺れている。癖っ毛なのか、ゆるくウェーブがかかっている。
オルランドさんが私達の前に鍛冶職人さんを連れて来る。すると、鍛冶職人さんはいきなり跪き出した。
ーえっ!?
だけど、その行動に驚いているのは私だけだった。フィオ様もオルランドさんも驚いてはおらず、当然のように受け入れている。
ここでは、貴族に対しては跪いて挨拶するものなのかな?じゃあ、このお屋敷に貴族の方が来られた時には、私も跪いて挨拶しなきゃならないのかな?それとも、使用人は『いないもの』的な感じで、挨拶は不要なのかしら?
私がそんな事を考えている間にも、鍛冶職人さんの挨拶は始まっていた。
ーいけない!ちゃんと聞かなくちゃ!
「この度は、宜しくお願い申し上げます」
「ああ」
「フィオレンツォ様の隣にいるのは、異国から来た月ヶ瀬 雫さんです。ここでは、ルーナと呼んでます」
オルランドさんが私の事を鍛冶職人さんに紹介してくれた。けれど。
ーど、どうしよう。鍛冶職人さんの名前を聞いてなかったよ。
私も挨拶しようと思ったけど、名前を聞いてなかったから、焦ってしまう。けど、『自分の名前を言うだけなら、名前を知らなくても問題ないか』と思い、自己紹介をする事に。
「初めまして。月ヶ瀬 雫です。ルーナって呼んで下さい。これから、宜しくお願いします」
私が礼をすると、すかさずオルランドさんが説明を付け加えてくれた。
「彼女が商品の案を考えてます」
「…彼女……?」
鍛冶職人さんが訝しげにそう呟いた。
ーしまった!!私、男の子だと思われてた!?
フィオ様も同席するから、私は一応支給して貰った白いシャツとズボンを履いた上で、髪を首の後ろで1つに結っていたのだ。もしかして、側から見ると男の子に見えるのだろうか。
一応、男装っぽくはしてるつもりだ。でも、フィオ様には性別を知られてるから、何となくのゆるい男装しかしていない。さらし風にタオルは胸に巻いてるけどさ。
なのに…。男の子と間違われるなんて。私って、男の子みたいなのかな?それはそれで、ちょっとショックなんだけど…。
「あっ、いや、その…。ご、ごめん!!随分キレイな男の子だなーと思ってたんだけど。それがキレイな女の子だったとは…」
この人は天然さんなのだろうか。それとも、天然タラしなのだろうか。それともそれとも、その両方なのだろうか。こんなにナチュラルに『キレイ』と言ってのけるとは。お世辞にしたって嬉しいです!ありがとうございます!!
「フフフ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。『キレイ』って言って貰えて嬉しかったです」
「……いえ」
鍛冶職人さんはそれだけ言った後、思い出したように私に向かって言った。
「あっ!!ボクはリオンです。宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」




