ピーラーとスポーツドリンク
私が何とか説明すると、フィオ様は少し考え込んだ。そして、少ししてから口を開いた。
「そうか、分かった。では、それらを開発してみると良い」
「ありがとうございます!」
「それで、私は何をすれば良いんだ?必要な物を用意したら良いのか?」
「いえ。スポーツドリンクに関しては、場所をお借りしたいです」
「場所?」
「はい!水を使っても大丈夫な所で、材料を切ったり出来る所が良いのです。厨房の隅をお借りしても良いのかもしれませんが、まだ厨房でのお手伝いはさせて貰えない身ですから、出来れば厨房じゃない方が良いかなと思ってるんですが」
「そうか」
フィオ様は頷くと、該当する場所があるか考えてくれた。
「そうだな。オルランドに聞いてみると良いかもしれないな。私の屋敷ではあるが、私が立ち入れない場所や知らない部屋などたくさんあるからな」
「ああ、そうですよね」
屋敷のご主人様たる者、軽々しく使用人の部屋や使用人が働く場所に立ち入ってはいけないからね。
「それで、ピーラーとやらはどうしたら良い?」
「そうですねぇ」
フィオ様に尋ねられて、私は考えた。ピーラーを作って貰う職人さんを紹介して貰ったら良いかな?それとも、信用出来る商人さんを紹介して貰って、商人さんから職人さんを紹介して貰った方が良いかな?
「ピーラーを作ってくれる職人さんか、ピーラーを取り扱ってくれそうな信用のおける商人さんを紹介して欲しいです」
「そうなると、商人を紹介するのが良いか」
「そうなのですか?」
「ああ。上手くいけば、先行投資で開発費を負担して貰えるかもしれないからな」
「おお!それは有り難いです」
私も開発費に関しては心配してた。もし負担して貰えるならものすごく助かる!
「商人との契約に関しては、オルランドを付けよう。オルランドが一緒なら、こちらが不利になる契約にはならない」
「そ、それは心強いです〜」
「だろう?オルランドに、商人に開発費を出させるような契約をして貰おう」
そう言って楽しげに笑うフィオ様だけど、私はまだ知らぬ商人さんが心配になった。貴族であるフィオ様からの紹介の上、フィオ様のお屋敷の執事であるオルランドさんと商談するのだ。商人さんの心理的負担が心配だ。こちらが無茶な事を言った時、商人さんはちゃんと断れるだろうか。無茶を承知で『はい』と言ってしまうのではないか。
まあ、フィオ様が信用出来る商人さんなら、貴族とも渡り合えるのかもしれないけど。
それでも、あまり無茶な条件を押し付けないようにオルランドさんにお願いしておこうっと。
「では、この件もオルランドに伝えておく」
「宜しくお願いします」
私はフィオ様にお願いしながら、心の中でオルランドさんに謝った。
ーオルランドさん、いつも仕事を増やしてすみません。機会があれば、肩でももみますからねー。
今回はピーラーだけど、ピーラーが上手くいったら、次はスライサーを作りたいなぁ。スライサーと千切りとおろしが出来るセットも良いな〜。
あー、本当はミキサーとハンドミキサーも作りたいんだけど、電化製品系って出来るのか心配で。動力をどうするのかとか。
あれ?でも、混ぜる動きだけなら風の魔石でどうにか出来る?かも?しれない?
竜巻の様な感じで風を起こせば、撹拌出来るのかも。もしくは扇風機。
ーあー、このアイディアを忘れたくない!メモメモ!
私はメイド服のエプロンのポケットから紙と万年筆を取り出した。そう!この国には万年筆があったのです。これは嬉しかったなぁ。いちいちペンにインクを付けて書くなんて大変だし、持ち歩けないもんね。
でも、公的文書にはインクを付けて書くペンを使う事になってるんだってー。
まあ、それはさておきメモらなくちゃ。
私はたたんだ紙を広げて、そこに『ミキサーとハンドミキサー、風の魔石を使える?竜巻?扇風機?』と『スライサー、千切り、おろし金』と書いた。
ーよし、これで忘れない!
「ルーナ?大丈夫か」
私が何やらゴソゴソしてたから、心配してくれたらしい。少し離れたテーブルにいたフィオ様が声をかけてくれた。
「あっ、すみません。良いアイディアが浮かんだので、メモしてました」
「あいでぃあ?めも?とは何だ?」
「アイディアは、考えや案の事ですね。メモは忘れたくない大事な事を書いておく事、ですかね」
「ほう。なるほどな」
フィオ様は相変わらずだ。知らない事、新しい事を知る事が楽しいようだ。
でも、楽しめているなら何よりである。




