フィオ様とのお話
「それで、こちらでの生活はどうだ?慣れたか?」
フィオ様に聞かれ、私は自分の生活を思い返した。
ーそう言われると、戸惑う事は少なくなった様な気がするなぁ。
「だいぶ慣れたと思います」
「そうか。それは良かった。では、仕事の方はどうだ?慣れたか?」
「仕事、ですか…」
仕事の事を聞かれ、私は何て答えようかと悩んだ。基本的な事は慣れたと思うけど、メイドの仕事も庭師の仕事もやる事や覚える事がたくさんあって、まだまだ『すっかり慣れた』とは言い難いかな。
「お仕事は、少しは慣れたと思いますけど、まだまだですねー」
「そうか。辛くはないか?」
「うーん。失敗した時とかは辛いですけど、皆さん優しいですから、辛くはないですよ。それに、やりがいもありますから」
私がそう言うと、フィオ様が微笑んだ。
ーうわー、美形のスマイル頂きました!
「そうか。だが、辛くなったらいつでも言うと良い。賓客として迎えよう」
「ひぇっ!?ありがとうございます…。ですが、それは大丈夫ですからね。賓客とかのお気遣いは無用ですからね」
フィオ様の提案にびっくりしてしまった。でも、賓客なんて、ノーサンキューだ。だって、考えてもみなよ。今まで一緒に働いていた人から給仕されるなんて、居心地の悪さと居たたまれなさが尋常じゃないレベルだよ。
それに、今まで気軽に話していた人達から丁寧な対応されたりするんだよ?何だか距離や壁は出来たみたいで、淋しいし悲し過ぎる。
ーそんなの嫌過ぎるよ!お断りだよ!
このまま働いているのが一番。それに、『働かざる者食うべからず』だしね。
私、日本でもアルバイトしてたから、何もしないでゆっくりのんびりするのは、どうも落ち着かないと言うか、性に合わないんだよねー。
「そうか、分かった。まあ賓客の件は置いておくとして、ルーナは何か最近困った事とかはないか?」
「困った事は、まさに今ですよ!…あいててて…。この頭痛と気持ち悪さに困ってます…」
私が『まさに今』って力強く言ったら、その反動で強い頭痛が襲ってきた。ずっとズキズキ痛んでるんだけど、それが強くなったのだ。もう止めてほしい。
「では、また水を飲んだら良い」
フィオ様がそう言ってコップに水を注ごうとしてくれたから、私は慌てて上半身を起こした。
「フィオ様!私が!…あ痛!!」
急な動きに頭が痛む。
ーううう、辛い。
「私の事は気にしないで、大人しくしていなさい」
「…ですが…」
「良いから、気にしないでほしい。こうして看病するのなんて、初めてなんだ。やらせてほしい」
私は、一瞬フィオ様が少し淋しそうな表情をした様な気がした。でも、すぐにそれは消えてしまった。本当に一瞬だったから、私の見間違いや勘違いかもしれない。だけど、私は何だか気になった。
「なっ?良いだろう?」
私の心配なんか露知らず、フィオ様が微笑んで聞いてくる。
ーうわー、ずるい!
淋しそうな表情に、爽やかな微笑み。これを見てしまったら、ダメなんて言えないよ。これが風邪とかうつる病気だったらお断りしてたけど、うつる病気って訳ではないしね。
「私は良いですけど、フィオ様は本当に良いのですか?」
「ああ。大丈夫だ」
「そうですか。では、宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく頼む」
こうして私はフィオ様に看病される事になった。
「起きてから水しか飲んでないが、食欲はあるか?何か食べられそうか?」
フィオ様が聞いてくれるけど、今は何も食べられそうにない。
「すみません。今は食欲がありません」
「そうか。では、もう少し様子を見よう。果物なら食べられるかもしれないしな」
「はい…」
風邪の時はりんごを食べたりするけど、二日酔いの時は何が良いのかな?やっぱり、りんご?それともオレンジとかレモンとかの酸味がある物が良いのかな?
…と考えて、私はフィオ様に相談したいと思っていた事を思い出した。
「フィオ様。私、ご相談したい事を思い出しました。今、良いでしょうか?」
「もちろん構わない。それで、相談したい事とは何だ?」




