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眠ったルーナ ーフィオレンツォ視点

私が、今まで飲んでいた飲み物がレモネードではなくレモン酒だと告げると、ルーナは驚きの声を上げた後、悲壮な表情になった。

かと思ったら、次には叫び声を上げ始めた。


「わ、私、お酒を飲んじゃったんだ…。どうしよう!警察に捕まっちゃったり、解雇されちゃう!わぁーーー!!!」


いきなり上がった叫び声に、私は驚いた。


「ど、どうした?」


酒を飲んだくらいで、一体どうしたというのか。私が尋ねると。


「フィオ様!どうしましょう!!私、未成年者飲酒禁止法を違反してしまいました!!!」


という答えが返ってきた。


「未成年者飲酒禁止法?その名称からすると、未成年者の飲酒を禁止する法律なんだろう?」

「そうです」


ルーナの国には、未成年者の飲酒を禁止する法があるようだから、多分ルーナはその法を違反してしまった事を気にしているのだろう。

ルーナに確認すると、『そうです』と頷いた。

話を聞くと、ルーナの心配は最もだと思える。やはり、何かあると自国の法を頼りにしてしまうよな。だが、そんな心配は不要だ。

この国では、未成年者も普通に酒を飲むからな。ただし、かなり薄めた酒に限るが。流石に子供を酔わせるわけにはいかないからな。


ルーナにその事を言うと、驚いていた。国も違えば法も変わる。世界が違うなら、尚更だろう。きっと、未成年者の飲酒を禁止してないなんて、ルーナには考えつかなかったに違いない。


「それって事は、つまり、私は法律違反をしていないという事ですか!?」

「そうなるな」


私が頷くと、ルーナはイスの背にへなへなともたれ掛かった。どうやら、安堵したようだ。


「あ〜〜、良かったぁ〜。てっきり、私は警察に捕まった上、仕事もクビになるんだと思ってしまいましたよ」


なるほど。恐らくルーナの国では、未成年者が酒を飲んだ場合、法を違反した者を取り締まる組織に捕縛されたり、勤めている仕事を辞めなければならないようだ。

それなら、ルーナの悲壮な表情も頷ける。仕事を辞めさせられたら、ルーナは自分の事情を何も知らない者達のところで働くしかない。ここでは私とオルランドが事情を知っていて、ルーナが困らないように色々教えているが、それがなくなるのだ。それは、とても大変な事だと思う。

まあ、その前に辞めさせたりはしないがな。


「そうはならなくて、良かったな」


私がそう言うと、ルーナは満面の笑みを浮かべた。


「はい!!」


その笑顔は、とてもキレイな笑顔だった。たまに、ルーナの笑顔にハッとさせられる時がある。この時もそうだった。

だから、反応するのが遅れてしまったのだ。ルーナが手を伸ばしたグラスへ反応するのが。


ルーナはグラスに手を伸ばすと、その中身を飲み干した。

私が、レモン酒を飲んだ事に気がついた時には、もう遅かったのだ。グラスの中に入っていたレモン酒を飲み干したルーナは、さっきよりも明らかに酔っていた。


「ルーナ?大丈夫か?」

「はいぃ〜、大丈夫れすよ〜〜」


これは、明らかに大丈夫ではないな。私は『水を持って来るから、そのまま待っているように』と告げると、席を立った。

そして、水の入ったグラスを手に部屋に戻ってみると、ルーナがテーブルに突っ伏していた。


「ルーナ!?」


具合が悪くなったのかもしれないと、慌ててテーブルに近づくと、ルーナはスヤスヤと寝ていた。酔って眠くなったのか。


ーこれからどうしたものか。


取りあえず、グラスをテーブルに置いて考えてみる。

ルーナの部屋に連れて行こうか。いや、途中で誰かに見つかると大変だ。

オルランドを呼ぼうか。いや、パーティーを抜けさせるのは申し訳ない。


私は考え、結局この部屋のベッドに寝かせる事に決めた。

起こさないように、慎重に抱き上げる。


ーまさか、ここまであの日と同じになるとはな。


ルーナが来た日を思い出しながら、私はルーナをベッドに降ろした。ルーナを見下ろすと、まだスヤスヤと眠っていた。


ー良かった。どうやら、起こさずに済んだようだ。


私はルーナの顔を見て、ほっと安堵の息をつくと、ルーナの頭に手を伸ばした。さっき抱き上げて思ったのだが、ルーナは小さくて軽い。そして、『こんな小さな身体で、異世界の地で懸命に頑張っているなんてすごいな』と思ったのだ。なので、労いの気持ちがわいてきて、思わず頭を撫でてしまった。


「ルーナはとても頑張っていると思うぞ」


寝ているルーナに声をかける。聞いてはいないが、それでも構わなかった。まあ、私の自己満足だ。

それにしても、こうして見ると、ルーナは人形の様だな。

小さくて見目麗しい顔に、黒くて真っ直ぐなサラサラの髪、長いまつげに、なめらかな頬、そして薄桃色の唇。

昔、妹が小さい時にせがまれて一緒にやったお人形遊びを思い出す。流石にあの時の人形は、もっと小さかったが。


私はもう1度ルーナの頭を撫でると、起こさないように静かに言った。


「おやすみ。良い夢を」


すると、ルーナはまるで私の言葉に応えたかのように、ニコリと笑った。

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