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ルーナが現れた夜 ーフィオレンツォ視点

差し入れを持って来てくれたルーナを部屋に入れた私は、ルーナの様子がいつもと少し違う事に気が付いた。ルーナは、普段仕事中はいつもはきりっとしているというか、きちんとしている。仕事外の時に私と話をする時は、仕事中よりはきちんとした感じはないが、それでもきちんとしている。

だが、今のルーナはいつもと雰囲気が違う気がした。


ーさっき、踊っていたからか?それとも、私が踊っていたところを見てしまったから、いつもと違って見えているのか?


どちらかが正解とは限らないが、そんな事を思った。

いつもと雰囲気が違うというのは、共にテーブルに着いても変わらなかった。やはり、いつもよりも言葉遣いが丁寧ではないような気がする。だが、それを不快に感じたり腹立たしく思ったりはしなかった。むしろ、新鮮な気持ちを感じていた。


ルーナに今日のパーティーの事を聞いてみると礼を言われたから、『いや、礼を言われる事はしていない。私自身は何もしていないからな』と返すと、なぜか叱られた。

よく聞いてみると、『礼はちゃんと受け取れ』という事らしい。パーティーを提案したのはルーナで、実行に当たって色々と調整したのはオルランドで、部屋の準備をしたのはマリア達で、料理を用意したのは料理長達だ。私はほぼ『パーティーをするぞ』と号令をかけるだけで、特別何かした訳ではない。だから、『礼を言われる事はしていない』と言ったのだが、それは違ったようだ。『パーティーを開くと決めたからこそ、今、皆が笑顔で楽しく過ごしているのだ』という事らしい。


ーなるほど。確かにそうか。


そう考えると、確かにちゃんと礼を受け取った方が良さそうだ。

それにしても、この屋敷でアンナとオルランド以外の者に叱られる事があるとはな。あの2人にしたって、最近は小言を言ってくるくらいだったのだが。


ー面白い。


私を叱れる者は、そう多くはない。それは、身分が高いからだ。ルーナは私の身分証を正確にはつたえていない。オルランドにも言わないように言ってある。それは、以前に私が貴族だと分かってしまった直後に態度を改められたからだ。あれには少し傷付いた。

いきなり壁が出来たように感じた。ああいうのは、辛いものだな。あの後、頼んで今まで通りにして貰っているが。

ルーナに私の身分が知られてしまえば、叱られる事もないのかもしれない。だが、それを淋しく思う。いや、別に叱られて喜ぶ趣味がある訳ではないのだがな。


その後、ルーナと今夜の月の話になった。


ー今夜の月は、あの時のように美しい。


そう思っていると、ルーナも同じようなことを考えていたらしい。『私が来たのも、こんな満月の夜だったんですか?』と聞かれた。


ールーナも気になるのだな。


私は普段、寝付きは悪くない。だが、あの日はなかなか寝付けなかったのだ。それで月に誘われてベランダに出てみれば、月から天女が降りてきたのだった。その後、私の前に現れたのは月から来た天女ではなく、異世界から来た少女だという事が判明した。

信じがたい話ではあったが、最初に私の言葉が分からなかったのに、水を飲んだ途端に理解出来るようになった事などから信じる事にしたのだった。


ーまったく、不思議な話だ。


あの時、ベランダに出てみて良かった。私が見つけたから私の元に来てくれたのか、そんな事は関係なく、たまたま私の元に来てくれただけなのか分からないが、言えるのはそれだけだった。


私はルーナが現れ、とても楽しい時間を過ごしている。知らない事を知るのは楽しい。他の国の事も色々と知りたいと思う私だ。だから、それがそれが異世界ともなれば、色々と知りたい聞きたいと思うのは当然だ!


それに、私はどうやらルーナの事を気に入っているらしい。妹に言われて気が付いたが。最近の私の話には、ルーナの事がよく出てくるらしい。

妹に『お兄様のお話に女性が出てくるのは珍しいですわね』と言われた。女性と言っても、ルーナはまだ子供で嫌悪感がわかないからだと思うが。


だが、さっきの踊っていた姿を見てからというもの、やけにルーナの仕草が女性らしく見えてしまう。悪い意味ではなく…。


ーはぁ。私は一体どうしたと言うのだろうか。

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