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レモネード

「料理なんですけど、何が良いか分からなかったので、適当にお持ちしましたけど、大丈夫そうですか?お腹いっぱいだったら言って下さいね」


一応、フィオ様の好きな食べ物や嫌いな食べ物は、アンナ様から教えて貰っているので知ってはいる。だから、好きそうなものを選んだつもりだ。けど、今お腹いっぱいかどうかまでは分からないからね。


「分かった。だが、酒を飲みながら食べるのに丁度良い量だから、大丈夫だ」

「そうですか」


フィオ様の返事に、私は安心した。あんまりたくさん持って来なくて良かった。


「そう言えば、フィオ様はレモネードってお好きですか?何の飲み物が良いか分からなかったので、レモネードにしてみたんですけど」

「レモネードは好きだ。それに、レモンも好きだ。今もレモン酒を飲んでいたところでな」

「あっ!では、レモネードは要りませんでしたね」


フィオ様がお酒を飲んでいた事を知り、私は慌てた。いや、でも私が飲めば良いんだから、まあいっか!


「レモネードを飲まないようでしたら、私が飲みますから大丈夫ですよ」

「では、お願いしよう」

「はい」


私はフィオ様からレモネードを受け取って、ゴクッと飲んだ。美味しーい!


「あっ!フィオ様、今日のお月様は満月ですよ!見ましたか?」

「見た。美しい満月だな」

「はい。私が来たのも、こんな満月の夜だったんですか?」

「そうだな。美しい満月の夜だったな。あの日はなかなか寝付けずにいたんだが、カーテンを開けると美しい満月が見えたのだ。それで、月見酒をしようとぶどう酒を飲みながら月を眺めていたら、君が現れたんだ」


そういえば、あの日のフィオ様の事を聞いたのが初めてだった事に今、気がついた。私が来た時の事は聞いていたけど、私が来る前の事は聞いてなかったな。


「へ〜、そうだったんですね〜。じゃあ私は、あの日フィオ様がなかなか寝付けずにいた事に感謝しないといけませんね〜」

「…そうか」

「はい!そのおかげで、このお屋敷で働く事が出来ましたし、皆さんに会う事が出来ましたから。もちろん、フィオ様にもですよ!あの日、私を拾ってくれたのがフィオ様で本当に良かったです。ありがとうございます」

「いや。別に大した事はしていない」


フィオ様のこの物言いに、私は少しムッとした。


「フィオ様には大した事じゃなくても、私には大した事なんです!もし、フィオ様とオルランドさんが悪い人だったら、今頃私は売られていたり見世物になっていたりしてますよ。でも、フィオ様は反対に、私を心配してくれるじゃありませんか。それに、何かと気に掛けて下さってますよね?だから、本当に感謝してるんですよ!なので、私の感謝の気持ちはちゃんと受け取って下さいね」

「…分かった。さっきも同じような事で怒られたな」


フィオ様は苦笑しながら言った。

確かに、さっきも同じような事で怒った気がする。


「そうですね。すみません」

「いや、今のはこちらが悪かった。すまなかった」


フィオ様に謝られて、私は慌てて首をブンブンと横に振った。

その瞬間、頭がクラっとした。思わず、目を手で覆った(うめ)いたら、フィオ様が立ち上がって私のところに来てくれた。


「どうした?大丈夫か?具合が悪いのか?」

「……いえ。頭を振ったら、目眩がしただけです」

「目眩か。今はどうだ?」

「今は治まってます」

「気持ちは悪くないか?」

「大丈夫です。むしろ、気分は良いくらいです!さっきから、ふわふわした気分なんですよ〜」

「ふわふわした気分?」


フィオ様は眉をひそめた後、私のおでこに手を伸ばしてきた。


「少し熱いような気もするが……」

「熱はないと思いますよ?風邪とかひいてませんし」

「そうか。いつから、ふわふわした気分になったか分かるか?」

「うーーーん。そうですねーーー?」


フィオ様からの思いがけない質問に、私は腕を組んで考えた。いつから?いつから。うーーーん。

庭で舞った時にはもうふわふわしてたな。そしたら、その前からだよね。そうだ!パーティー会場で食べてる時だ!


「パーティー会場にいる時からです」

「そうか。具合は?」

「悪くありません」

「分かった。とりあえず、水を持って来る」


フィオ様が水を持って来ようと踵を返したから、私は止めようと慌てて立ち上がった。


「待って下さい!行くなら自分で……ひゃあ!!」


いきなり立ち上がったのが悪かったのか、よろけてしまった。そこを、フィオ様が抱きとめてくれた。


「…あ、ありがとうございます…」

「いや。大丈夫か?」

「大丈夫です」


だけど、フィオ様の腕を離れて立とうとした途端、膝から崩れ落ちそうになった。そこをフィオ様が支えてくれたけど、私の心は不安と恐怖でいっぱいだった。


「えっ?えっ?どうしよう……。立てなくなっちゃった」


私が泣きそうになっていたら、フィオ様の冷静な声が降ってきた。


「安心しなさい。原因が分かった」

「原因…ですか?」

「ああ」


フィオ様は私をイスに座らせた後、『失礼』と言って私が飲んでいたレモネードのグラスを手に取った。グラスに鼻を近づけて匂いを嗅いだと思ったら、次にグラスに口をつけた。


「やはりな」

「えっ?」

「ルーナ。君が持って来たこのレモネードだが、これはレモネードではない。レモン酒だ」

「えっ、えええええ!?」


ー私、お酒を飲んじゃったの!?

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