差し入れ
パーティー会場に戻った私は、手元にある扇子を見て、フィオ様の事が頭によぎった。
ーフィオ様は、今、何をしているんだろう。
私が不参加を言い渡したから、淋しい想いを抱えながらご自分の部屋にいるのかもしれない。そう考えると、とてもフィオ様に申し訳なくなった。
だから、パーティー会場にある料理をお皿に取って差し入れに持って行く事にした。
「ふふふ〜ん。どれが良いかな〜」
まだまだ気分がふわふわしているから、自然と鼻歌が出てくる。ふふふふふーん、ふふふふーん。
フィオ様は晩ご飯を食べているから、あんまり重たくないものが良いよね。軽く食べられるものを選んでいく。
ーあっ!フィオ様が差し入れてくれたケーキも取らなくちゃ!
新しいお皿にケーキを乗せる。出来たら、私も一緒に食べたいと思うから、私の分も取っていく。飲み物も持っていかなくちゃね。冷たいレモネードが気に入ったから、レモネードにする。フィオ様もレモネード、好きかな?一応、フィオ様にもレモネードを用意する事にする。
準備が出来たら、フィオ様の部屋に向かう。フィオ様の部屋に行くのは久しぶりだ。何か話をする時は応接室でするからね。それに、最近はパーティーの準備で忙しかったから、フィオ様とゆっくり会う事自体が久しぶりなのだ。
コンコンとドアをノックしたら、『入れ』と返事が返ってきたから、遠慮なく入る事にする。
「失礼しまーす!」
私がドアを開けながら声をかけると、中から驚いたような声が聞こえてきた。
「ルーナ!?」
何で驚いてるのかな?オルランドさんが来たのかと勘違いしてたのかな?ま、いっか!
「はい!」
「なぜ、ここに?」
フィオ様からの問いに、私は手にしていたトレイを差し出した。
「参加出来ずに淋しい思いをしているんじゃないかと思って、差し入れを持って来ました!」
私は意気揚々と言った。そしたら、なぜかフィオ様に笑われた。何で?
「何かおかしかったですか?」
「いや、何でもない。ありがとう」
フィオ様は私にお礼を言うと、頭をなでてきた。
ーなぜ、頭を撫でられたのでしょう?差し入れが嬉しかったのかな?
少し腑に落ちないけど、まあ良しとしよう。だって、今の私はふわふわした良い気分だからね〜。
部屋の中に入ると、テーブルにトレイを置いた。そして、セッティングしていったんだけど……。ここで、1つ問題が。
「あのー、私も一緒に食べても良いですか?」
「もちろん構わない」
「良かった!ありがとうございます!」
フィオ様の心優しさから、問題は無事解決した。なので、私の分のお皿も並べていく。
ーフィオ様が『良い』って言ってくれて良かったぁー。
フィオ様は身分をひけらかすお方ではないけど、それとこれとは話が別で、一緒に食事をするのは嫌かもしれないと心配してたんだ。ここまで持ってきておいて、『嫌だ』とか言われたら、淋しすぎるもんね。
「お礼を言われるような事ではない。むしろ、ここに1人残されて食べるのも、ルーナに見られながら1人で食べるのも淋しすぎるぞ」
「確かにそうですね」
「では、共に食べるとしようか」
「はい!」
私は笑顔で返事をして、フィオ様の向かいの席に座った。
「パーティーはどうだ?」
「皆、楽しんでますよ。私も楽しいです。フィオ様、ありがとうございます」
「いや、礼を言われる事はしていない。私自身は何もしていないからな」
お礼を言ったら、遠慮?謙遜?をされてしまった。いやいや、フィオ様それは違いますから。
「えー?何言ってるんですか?十分お礼を言われるような事、してるじゃないですか。だって、皆楽しそうですよ?笑顔ですよ?笑ってますよ?それって、すごい事ですよ?それで、それをしたのは、フィオ様なんですよ?だから、フィオ様はちゃんとお礼を受け取らないとダメなんですからね!」
そう言ったら、フィオ様がびっくりしたような顔をしていた。ちょっと畳み掛けすぎちゃったかな?
「…そうか。分かった」
びっくりしてはいたけど、フィオ様は分かってくれた。良かった。
「なら、良いです!あっ、あとケーキもありがとうございました。とっても美味しかったです」
「そうか。それは良かった」
フィオ様は笑顔でそう言った。




