扇子
フィオ様に呼ばれた部屋に入った私だったけど、入ってすぐに声を上げた。
「何ですか!?これは!」
なんと、テーブルの上に扇子が置いてあったのだ。それも幾つか。デデーンと広げた状態で置いてあるものだから、テーブルは扇子でいっぱいになっている。
「何って、扇子だ」
「いえ。それば見れば分かりますよ。これは、一体どうしたのですか?」
「どうしたって。ルーナが扇子を欲しがっていると聞いたから、持っている物を持って来たんだ」
「はい?」
フィオ様の返答に、私は首を傾げた。
『持っている物』とは、フィオ様の物だという事だろうか?このレースの付いた扇子も?羽の扇子も?
この2つは明らかに女性物だ。
……という事は。
実は、フィオ様には女装趣味が!!
私はその衝撃の事実に慄いた。いや、別に女装趣味を否定している訳ではないんですよ。ただ、フィオ様がそうだとは思わなかったものだから、とっーーーーーっても驚いてしまっただけだ。
いや、けどフィオ様は美形だから、女装をしたらきっと似合うだろう。ちょっと背は高いけど、背が高い女性もいるから無問題だろう。うんうん。
決してゴツくなく、スラッとしているから、ドレス姿も様になっているに違いない。
「フィオ様、よくお似合いだと思います!」
「?。何がだ?扇子がか?」
「はい!このレースの扇子も羽の扇子もお似合いになってます!」
「………ありが…とう…?」
私の賛辞に対して、フィオ様が首を傾げた。
ーあれ?何で首を傾げてるの?私、何かおかしい事を言ったかな?
フィオ様が首を傾げた事で、私も首を傾げる事になった。お互いの頭上に『?』マークが浮かんでる気がするよ。けど、すぐにフィオ様の頭上から『?』マークが消えた。
「違うからな?」
「はい?」
私の頭上には『?』マークがまだ浮かんだままである。けど、すぐに私の頭上からも消え去った。フィオ様の言葉と行動によって、疑問は解決したのである。
フィオ様は、レースの扇子と羽の扇子を順番に指差して言った。
「これとこれは、妹のだから」
「妹さんの」
なるほど、なるほど。そうでしたか。私はてっきりフィオ様の物だと思っておりました。いやはや、私の早とちりの勘違いだったようです。ううう、すみません。
「妹に扇子の話をしたら、『この扇子とこの扇子に合うドレスがないから、使えない』と言っていてな。それで、『持って行って良い』と言われて」
「そうでしたか」
「使っていないとは言え、妹が持っていた物を贈るのはどうかと思ったんだが、妹が『わたくしの物を下賜するのですよ!皆様、有り難かって下さるではありませんか。そのルーナさんも貰って嬉しいに決まっています!』と言い張って。はあ。私の周りの女性はどうしてこうも皆、気が強いのか……」
フィオ様からは、ため息と共に哀愁漂う台詞が聞こえてきた。ご苦労されているんですね。
「なので、ここにある扇子を全て受け取ってほしい」
「ほわっ?」
驚きすぎて、思わず『What?』って言っちゃった。でも、この場合は『why?』が正しかったかも。失敗失敗。
「あの〜、仰ってる事がよく分かりませんが。この2つの扇子は分かりましたが、その他の扇子は頂けませんよ」
「いや、ルーナがどんな扇子を欲しがっているのか分からなかったものだから、取り敢えず私が持っている物も贈ろうと思ってだな。いや、新しい物を用意しようと思ったんだが、時間がかかるそうなんで、先にこちらを贈ろうと……」
話を聞いているうちに私がジト目になったからか、フィオ様があたふたと言い訳じみた事を言い出した。いや、新品が良いとかそういう事じゃありませんからね?
「フィオ様、新品かどうかは問題ではありません。問題なのは、数が多いという事です」
「数…。いや、多くはないだろう?その2つを入れて全部で5つだぞ?」
「いや、多いですから!」
ー全く!これだからお金持ちは困る。私と意識が違いすぎるよ。私は和風の扇子が1つあれば十分なんですけど…。




