夏が近ずく
私がこちらに来て、早くも2ヶ月が経った。
ー何か、あっという間だったなー。
何とかこちらでの生活に慣れようと、がむしゃらに働いたり学んだりした。そのおかげで、大分こちらに慣れたと思う。けど、時々日本の家族や友達を思い出しては、淋しくなる。帰る方法は見つける事が出来ないままである。お金は少し貯まったけど、『月の天女』の国に行くにはまだまだだ。先は長そうである。はぁ〜。
お仕事は、少しずつ慣れていっている。出来ない事や分からない事もまだまだあるけど、最初よりは出来る事が増えた。まだ料理のお手伝いはさせて貰えないけどね。
庭師のお仕事は、何とか頑張っているよ。最初は筋肉痛になったりしたけど、今はもうならないし。ただ、季節によって咲く花の種類が変わってくるから、覚える事がたくさんあって大変ではある。
だけど、元から身体を動かすのは好きだし、庭師の皆さんも良い人達だから、庭師のお仕事は楽しくもある。
初日のお昼ご飯以来、庭師のお仕事をしている日には、たまにリベリオさんとも一緒にご飯を食べている。
リベリオさんと一緒にご飯を食べていて、私には分かった事があった。それは、リベリオさんは笑い上戸という事だ。リベリオさんはイタリアの伊達男というイメージを持っていたけど、そうではないのかもしれない。ただのフレンドリーなお人なのかも。私はリベリオさんに対する認識を改めた。
あと、誰かをからかうのも好きなのかもしれないね。一応、からかわれない様に、気をつけている。
けど、たまに引っかかっちゃうんだよねー。悔しい。
庭師のお仕事を始めて1ヶ月が過ぎると、私はメイドのお仕事と庭師のお仕事を1週間交代でする事になった。今日はメイドのお仕事の日。
私は、お昼ご飯をベルタさんとカリーナさんと一緒に食べている。
「最近、暑いわね〜」
「本当ねー」
私がこちらに来た時、季節は春だった。それから2ヶ月が経ったから、今はもう初夏になった。日本で言うところの6月くらいだと思う。だけど、こちらは6月くらいでも梅雨ではないみたい。じめじめしてないのは、とっても助かる。蒸し暑いのは、嫌だもんね。
ただ、カラッとした暑さだとは言え、やっぱり暑い。こう暑いと、扇子とか団扇が欲しくなる。
ただ、西洋には団扇のイメージがないし、西洋の扇子にはレースとか羽が付いてるイメージがある。更に、そのレースや羽付きの扇子を口元に当てて『オホホホホ』と笑うイメージだ。
私が欲しいのは、和風の扇子なんだけどなー。そういう扇子ってあるのかな?
「この国にも扇子ってありますか?」
私が2人に尋ねると、2人はすぐに答えてくれた。
「扇子?あるわよ〜」
「欲しいの?結構なお値段するわよ」
「えっ!!そうなのですか?」
扇子が結構お高いという事を聞いて、私は驚いた。扇子って気軽に買える物じゃないんだね。
「そうよ〜。貴族のご婦人やご令嬢が使うんですもの」
「まあ、お値段はそれなりにするわね。扇子も安い物から高い物まであるけど、安いって言ってもルーナにはなかなか手が出ないお値段だと思うわよ?」
口々に言われ、私は自分の認識が少し当たっている事に気がついた。
ーやっぱり、『オホホホホ』な方々が使うんだ。でも、私が欲しい扇子はあくまで和風の扇子なんだよー!
多分、ベルタさんとカリーナさんが知ってる扇子は西洋風の扇子なのだろう。この国には和風の扇子はないのかもしれないな。他の国にはあるかな?
けど、無くてはならないって訳じゃなければ、どうしても欲しいって訳じゃない。諦めるとしよう。残念だけど。
「それは残念です。流石にそんなに高い物は買えませんので、諦める事にします」
「そうね〜」
扇子の話はそれで終わった。確かに終わったのだ。その時は。
けど、他のところで話が続いていたのである。私の知らないところで。
どうやら、ベルタさんとカリーナさんがアンナ様にも聞いてくれ、その話がオルランドさんに伝わり、そこからフィオ様に行き着いたようだ。
その日の晩ご飯の後、私はフィオ様に呼ばれた私は驚いた。たまに呼ばれて地球の話をしているんだけど、今回の目的はそうではなかったのだ。
ーいやいやいやいや!受け取れませんからー!




