庭師のお仕事とランチタイム
ラウルに道具の事を教えて貰った私は、両手に手袋をはめて立っている。これから、草むしりをするのだ。草むしりって、スポンと根っこまでちゃんと抜けると気持ち良いんだよねー。ずっとしゃがんでるから、疲れるけど。
ラウル先生のご指導のもと、抜いて良い草とダメな草を選別しながら雑草を抜いていく。たまに雑草に混じって抜いちゃダメな草も生えているようだ。
どこからか種が飛んで来るのかな?
何はともあれ、私は草をズボズボ抜いていった。
午前中は道具の勉強と草むしりで終わった。疲れたー。脚が辛い。腰が痛い。
お昼ご飯を食べに向かいながら、私が腰をトントンと叩くと、隣を歩いているラウルは、首をコキコキさせていた。お互い疲れたね。
お昼ご飯はラウルとリベリオさんと一緒に食べる事になっている。ラウルとは結構一緒に食べてるけど、リベリオさんとは初めてだ。何を話そう。ドキドキ。
「よう!ラウル、ルーナちゃん。お疲れさん」
「「お疲れ様です」」
先に食堂に来ていたリベリオさんが、私達を呼んだ。席を取っておいてくれたようだ。
「リベリオさん、ありがとうございます」
「なんのなんの。それより、ルーナちゃんは今日が初日だし、疲れただろ?早く座りなよ」
「はい」
リベリオさんは、親切だね。私とラウルはリベリオさんのお向かいと斜め向いの席に着いた。
「あれ?ハンスさんは?一緒じゃないのですか?」
「ああ、じいちゃんはいつも少し空いた頃に来るんだ」
私の質問にはラウルが応えてくれたんだけど、私はその返答にびっくりした。
「えっ!?じいちゃん!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!」
「そうだっけか」
「それで、ハンスさんはラウルのおじいちゃんなの?」
「そうだよ」
ラウルがあっさりと肯定すると、リベリオさんが少し驚いた様に言った。
「ルーナちゃんは知らなかったのか」
「知りませんでした!」
「そうか。それはごめんな。てっきりラウルから聞いてるかと思ってたから」
「いえ。リベリオさんが謝る事ないですから」
皆、ハンスさんとラウルが祖父と孫だって事を知ってるんだよね。何で、誰も教えてくれなかったんだろう。知らなくても問題ない事かもしれないけど、知ってたかったよ。
それにしても、おじいちゃんかぁ。
「あれ?お父さんは?」
思わず声に出して言っちゃった。言った後で、『しまった』と思った。もし、悲しい事情とかあったらと考えると…。
「今のなし!何でもないから!聞かなかった事にして!」
私は慌ててラウルに言ったけど、ラウルはキョトンとしていて、リベリオさんは笑っていた。
ーえっ?今の笑うところですか?笑って良いところなんですか?
「うん?父さんの事?」
「うん。そう。別に無理に言わなくて良いからね!」
「えっ?あっ?うん?」
私が勢い良く言い募るものだから、ラウルは展開についていけないようだ。
ー良し!このまま、うやむやにしてしまおう!
と考えていると、リベリオさんが笑いをこらえながら言ってきた。
「大丈夫。ラウルの親父さんはピンピンしてるよ」
「えっ?そうなんですか?」
「そうそう。だから、親父さんの話を聞いても平気だよ」
リベリオさんがそう言ってくれたから、私は胸を撫で下ろした。
「なんだぁー。良かったぁ」
リベリオさんにお墨付きを貰った私は、早速ラウルに聞いてみた。
「ラウル、お父さんはここでは働いてないの?はっ!もしや、私が知らないだけで、このお屋敷にお父さんもいるの?」
この質問に、リベリオさんが吹き出した。
「ハッハハハハハ!」
「えっ?何で笑うんですか!」
よく見ると、ラウルも肩が震えている。
「ちょっ!ラウルまで!」
「……ごめん。…だって、おかしくて……」
「もう!!」
私はプイっと横を向くとパンにかじりついた。何か、理由も分からず笑われて、恥ずかしいのだ。
「ルーナ、ごめん。僕の父さんはここでは働いてないよ。じいちゃん以外の家族は他の所で働いてるんだ。だから、機嫌を直してよ」
「……分かった」
別に怒ってる訳じゃないんだけど、許す事にする。
ラウルは『良かった』と言うと、説明してくれた。
「ウチは代々庭師の家系なんだ。本当なら父さんがじいちゃんの跡を継ぐ事になってたんだけど、母さんと結婚する為に継ぐのを止めたんだよ」
「何で?」
「母さん家も庭師の家系でね。父さんはじいちゃんから教えを受けた後、『他も見てこい』と修行に出されたんだ。それが母さんの家。そこで、1人娘の母さんと出会ったんだ」
「ふむふむ」
「母さんは1人娘だから婿をとらないといけなかったのを、父さんが婿に入ったんだよ。だから、じいちゃんとは一緒に働いてないんだ」
「なるほどー。ハンスさんとお父さんは、その事が原因でケンカしたりとかは……?」
「ないよ」
「そっかぁ。それなら良かった。でも、色々と複雑な事情があるんだねー」
「そうなんだよ」
話を聞いて、ラウルは庭師の家系だから庭師のお仕事をしている事が分かった。じゃあ、リベリオさんは?
「リベリオさんもお家が庭師さんなのですか?」
「オレ?いや、オレん家は普通の家だよ」
「じゃあ、何で庭師になろうと思ったのですか?」
「それはね、花が好きだからだよ。まあ、花を好きになったのは、おふくろが花好きだったからだけど」
「お母さんがですか?」
「うん、そう。ウチのおふくろは身体が弱い人でね。しょっゅう寝込んでたんだ。そんな時に花を持って行くとすごく喜んでくれてな、それで花が好きになったんだ」
「良い話ですね」
「まあ、そんなおふくろは、もういないんだけどな……」
「!?。それって……」
私は声を失った。そんな事って……。
そんな時、リベリオさんの笑い声が聞こえてきた。
「ハハハハハ」
「リベリオさん?」
私が訝しんで尋ねると、リベリオさんが教えてくれた。
「ウチのおふくろもピンピンしてるよ。今じゃおふくろは元気になって、『花より食べられる野菜の方が好きだ』とか言って、畑を耕してるよ」
「なぁーんだぁー。良かったぁ」
って事は。
ー私、リベリオさんにからかわれたんだぁー。悔しいー!




