ご挨拶
「皆さん。こちらが本日から一緒に働く事になったシズクさんです。ヤマタイト国の出身です。シズクという名前は呼びにくいだろうとの事で、愛称としてルーナと呼ぶ事になっています。こちらの事には不慣れなので、よく教えてあげて下さい」
ここで、オルランドさんが私を見た。小声で『挨拶を』と言われたから、コクンと頷いてみせた。
「初めまして、月ヶ瀬雫と申します。オルランドさんの仰られた通り、ルーナと呼んで下さい。こちらの事はまだまだ分からない事だらけですので、教えて頂けますと嬉しいです。どうぞご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します」
そこで一礼した。すると、パチパチパチと拍手が聞こえてきた。
ー良かった。ほっとしたよー。
拍手が止んだところで、オルランドさんが話し始めた。
「ルーナは特殊な働き方をする予定です。メイドとして働いたり、庭仕事の手伝いをする事になっています。他にも出来る事や出来そうな事があったら、やって貰う事になっています。何事も初めての事ばかりですので、丁寧に教えるようにして下さいね。では、皆さんも自己紹介をお願いします」
最初に自己紹介をしたのは、私がお世話になるメイド長だった。
「メイド長のアンナ・ヴィオーラです」
「宜しくお願いします」
メイド長のアンナ様はおキレイな方だ。何歳くらいだろう。30代くらいかな?焦げ茶色の髪に、翠の瞳をしている。いかにも仕事が出来ますって雰囲気の美人さんである。
「メイドのベルタよ。宜しくね」
「同じくメイドのカリーナよ」
「はい!宜しくお願いします」
次はメイドのベルタさんとカリーナさん。こちらのお2人はふんわり柔らかい雰囲気を持っている。結構ご年配なベルタさん。カリーナさんはアンナ様以上ベルタさん以下のご年齢かな?
歳が近いメイドさんはいないみたい。ちょっと残念。だけど、皆さん優しそうで良かった。
次に自己紹介をしてくれたのは、料理部隊の面々だ。
「俺が料理長のティーノだ。宜しく頼む。料理を手伝いたいらしいが、お前さんの腕前や人となりがまだ分からんのでな。色々見てから考えさせて貰うな」
「分かりました!宜しくお願いします!」
次は、コックさん。
「僕はコックのパオロ。これから宜しくね」
「はい。宜しくお願いします」
その次もコックさん。
「…同じくコックのヴィートだ。宜しく…」
「宜しくお願いします」
ーヴィートさんは、クールというか口数が少ない雰囲気を感じるね。
料理部隊の次は、庭師組だ。
「ワシは庭師のハンスじゃ。ワシの仕事を手伝って貰えるようだな?」
「はい」
「庭は、旦那様やお客様に安らぎを与える為に整える」
「はい」
「庭が素晴らしければ旦那様の評価も上がり、そうでもなければ、旦那様の評価も大したことないとなってしまうのだ」
「うわ〜、責任重大ですね」
「まあな。まあ、どの仕事も責任重大である事に変わらんが」
「ああ、そうですね」
「そんな訳だから、厳しくいかせて貰うな」
「分かりました。ご指導、宜しくお願いします」
「おう。じゃあ、ワシの弟子達を紹介する。リベリオにラウルじゃ」
トマスさんがお弟子さん達を紹介してくれた。
「リベリオだ。宜しくな、ルーナちゃん!」
「こちらこそ宜しくお願いします」
リベリオさんはパチンとウインクしてきた。
ーうわぁ〜、ウインクする人を初めて見たよ!本当にいるんだ!
リベリオさんのウインクにちょっと感動しちゃった。何て言うか、リベリオさんはその言動からしてイタリアの伊達男って感じがする。
次に自己紹介してくれたのはラウルさん。
「ラウルだよ。僕はまだ未成年だから、見習いなんだ。君とは歳も近そうだし、仲良く出来たら良いなと思ってる。宜しくね」
「うん!宜しくね!っとと、宜しくお願いします」
仲良くしたいって言ってくれたのが嬉しくて、思わずタメ口になっちゃったけど、いけないいけない。今はお仕事中だし、先輩だもん。敬語にしなくちゃ。
「ハハハ。普通の喋り方で良いよ」
「…良いの?本当に?」
「うん。さっきも言っただろう?仲良く出来たらって」
「うん!ありがとう!!」
ーーわーい!こっちに来て初めての友達ゲットだよ〜!!
フィオ様もオルランドさんも良くしてくれてるけど、友達とは言えないからねー。
ーう、嬉しすぎるぅ〜。
庭師組の次の自己紹介は、馬組だそうです。厩舎で働く人達や御者さんだね。
馬組のトップバッターは厩舎長だ。
「俺は厩舎長のセストだ。厩舎で働きたいそうだが、ダメだからな。ずっと馬の世話をしたいというなら、俺も考えたが、たまにやりたいなんて、そんな中途半端な思いじゃダメだ」
友達で浮かれてたところに、厩舎長のこの発言がきて、私の心をグサッとえぐった。
ー正論すぎる。
厩舎長は馬のお世話のプロだ。
プロフェッショナルな仕事をする人って、仕事に対する情熱がすごくありそう。そんな中、ちょっとやってみたいっていう甘い考えの私が許せないのかもしれない。
それに、きっと厩舎長は馬が好きに違いない。だから、なんとなくやってみたいっていうだけで馬に近付いてほしくないのかもしれない。
「すみませんでした。申し訳ございません」
私は厩舎長に頭を下げた。下げた顔は、きっと真っ赤だろう。顔も耳も熱いから。
今、私はものすごく恥ずかしい。羞恥心で。
安易な考えで、『馬のお世話をしてみたい』って言った過去の自分をたこ殴りにしてやりたい。
「分かったなら良い。まあ、まだ子供だしな。これから気をつけたら良い」
「はい!ありがとうございます!!」
ーおお!厩舎長、良い人!
それにしても、ここで『子供だしな』という理由で許して貰えるとは。あの時は、ちょっとした常識を知らなくても誤魔化せるっていう理由で12歳にしたのに。
何だか、申し訳ない。でも、本当の年齢は言えない。だから、私、誠心誠意働く事にします!
「あの、たまに馬を見に行っても良いですか?もちろん、遠くから離れて見ますから」
厩舎長はプイッと横を向いて言った。
「…好きにしろ」
「!?。ありがとうございます!!」
厩舎長って、ちょっとぶっきらぼうな感じがするけど、実は良い人でしょ。フフフ。
「厩舎長がごめんね。僕は厩舎で働いているリエトです。厩舎長は頑固な性格してるけど、根は良い人だからね。嫌わないでやってね」
「フフフ。ちょうど、実は良い人なんだろうって考えてました」
「そうか。それなら良かった。ぶっきらぼうだから、誤解されやすいんだよねー」
「そうなんですね。でも、ちゃんと叱ってくれる良い人ですよね。それに、私が悪いですし。馬や厩舎での仕事に対して真っ直ぐに向き合ってる人じゃないと、厩舎で働くのはダメですもんね」
「まあ、そうだね。ルーナがちゃんと分かってくれる子で良かった。これから宜しくな」
リエトさんは、背を屈めて私の顔を見ながら、頭をなでてくれた。
ーわっ!?距離が近いですよ!
顔が近くて、ちょっとびっくりしちゃった。うう、顔が赤くなってないと良いけど。
「よ、宜しくお願いします」
次は御者さんだ。
「私は御者のロベルトです。宜しくお願いしますね」
「宜しくお願いします」
ロベルトさんで最後かな?と思っていると、オルランドさんが自己紹介をしてくれた。そういえば、お互いに自己紹介してなかったかも。
「そして、私が執事のオルランドです。宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「他にもまだいるのですが、旦那様に付いて行ったりしていてここにおりませんので、また機会がありましたら紹介しますね」
「分かりました」
そこで、オルランドさんが手をパンパンと叩いた。
「これで挨拶を終わりとしたいと思います。皆さん、仕事に戻って下さい」
「「「はい」」」
こうして、私は無事挨拶を終えたのであった。ふぅ〜。やれやれ。




