風の魔石
「ひぃやぁーーーーー!!!すみません、すみません、すみません」
びしょ濡れになったフィオ様に、私はひたすら謝った。だって、謝るしかないよね、これは。
「だ、大丈夫ですか?え、えーと、何か拭くもの。タオル、タオル…」
ーーって、しまったぁー!タオルは私の服の中にあるんだったぁー!
今、さらし風に使ってるから、タオルはダメでしたぁー。じゃあ、ハンカチ。ハンカチはどこだ!ハンカチはバッグの中だ!
私は急いでバッグの中からハンカチを取り出した。ポタポタと水が滴っているフィオ様の顔を拭いていく。フィオ様は背が高いから、拭くのも一苦労だ。
つま先立ちになって、何とか拭くと、お次は髪の毛。
ーがぁーん。と、届かない。
私は何とか拭こうとピョンピョン飛び跳ねて、髪にハンカチで触れていった。
ー私、ジャンプ力にはなかなか自信がありますよ!ふふん。
「えいっ!えいっ!」
当然だけど、ジャンプしながらだと、なかなか上手く拭けない。困った。
むーん。
私がジャンプするのを止めて、腕を組んでどうしようか考えていると、それまで何も言わず黙っていたフィオ様が、突然吹きだした。
「アーーッハッハッハッハッハー」
抱腹絶倒。倒れてはいないけど、文字通りお腹を抱えて笑っている。
フィオ様の笑いは、まだ続いている。
ーーえーっと、私はどうしたら良いんですかね。
もしかして、笑ってて頭の位置が下がってる今が、髪を拭く絶好のチャンス?
そう気付いたら、やらずにはいられない。
「失礼しますね」
笑ってるフィオ様の髪にそっとハンカチを押し当てた。すると、ハンカチを持っている手の、手の甲にフィオ様の髪が触れた。
ーうわぁー、サラサラのツルツルだー!
なんて羨ましい!
キレイな金の髪だけでも羨ましいのに、さらにサラサラでツルツルだとは!きぃー、羨ましすぎるー!
自分の髪が真っ黒だから、明るい髪色に憧れるんだよねー。
はぁ。
羨ましすぎてため息をつくと、フィオ様が頭を下げたまま、こちらを見ていた。
ドキッ!
その眼差しを見て、私の鼓動が高鳴った。色んな意味で。
こっちを見てないと思ってたのに見ててびっくりしたのと、じっと私の事を観察するような真剣な眼差しにと、その端整なお顔に。
「ひっ!な、なんですか?」
思わず、仰け反る。そして、1歩2歩後ろに下が…がしっ!
後ろに下がろうとしたら、腕を掴まれて阻まれてしまった。
「ひぇっ!!」
「……そんなにおびえなくても大丈夫だ」
「は、はい〜。あ、あの……フィオ様?何故腕を掴んでいらっしゃるのでしょう?」
私は、腕を掴んでいる手を見ながら尋ねた。
「それは…逃げようとしたからだ。もう逃げないか?」
「逃げません。大丈夫です」
「そうか、なら良い」
フィオ様は頷くと、私の腕を掴んでいた手を離した。
ほっ。
手を離して貰えて、ほっとした。
それにしても、一体何だったんだろう?うーん、フィオ様の考えてる事は全く分からん。
いや、今はそれどころじゃなかった。拭かないと。
私がまたフィオ様の髪を拭こうとしたら、フィオ様に止められた。
「大丈夫だ」
「で、でも。まだ濡れてます」
私がそう言うと、フィオ様はニヤリと不敵に笑った。
「こうすれば平気だ」
フィオ様は首飾りから乳白色の魔石をつまみ上げた。そして、手に握り込む。すると。
フワッ。
風が私の周りを取り囲んだ。
「わわっ!!」
風はすぐに止まった。
「ふ〜。びっくりした」
「ハハハ。驚いただろう?けど、驚くのはまだ早い」
「えっ?」
「頭や服を触ってみれば分かる」
フィオ様に言われた通り、頭や服を触ってみる。すると。
「乾いてる?」
「ああ。その通りだ」
見ると、フィオ様の髪がフワッとしていた。濡れてペッタリとはしていない。
「わー、すごい!!本当に乾いてますね。さっきの風で乾かしたんですね?」
「そうだ」
これは言わば、ドライヤーみたいな感じだろう。便利〜!でも。
「だったら、最初からこうしてれば良かったんじゃないですか?」
「そうだな」
フィオ様はアッサリ頷くと、こう続けた。
「水がかかって驚いたところに、ルーナの慌てようが凄くてな。そちらに気を取られ過ぎたのだ」
「ええー!」
何だ、それは。私の慌てっぷりが凄すぎて、すぐに魔石の事を思い出せなかったって事かい。
「それは…すみませんでした」
「いや、面白かったから良い。それに、今回の事は先に止め方を教えておかなかった私のミスだ。
すまなかった」
「いいえ、いいえ!」
私は顔と両手をブンブンと左右に振りながら、言った。
確かに、最初に教えて貰えたら良かったかもしれないけど、フィオ様はちゃんと『落ち着け』『大丈夫だ』って言ってくれてたもん。
落ち着けなかった私も良くなかった。
「私が慌て過ぎたのが良くなかったんです」
「しかし、最初に言っておけば、慌てさせる事もなかった」
私がああ言えば、フィオ様はこう言った。
これだと埒があかない。
「分かりました。では、こうしましょう。お互い非があったという事にしましょう」
私がフィオ様に『ねっ?そうしましょう?』と言うと、フィオ様も同意してくれた。
「申し訳ございませんでした」
「すまなかった」
お互い謝って、これにて一件落着〜!!
風の魔石の色が間違っていたので、訂正しました。
すみません。




