魔力を調べよう
私は、内心フィオ様に対してオドオドしていたけど、それを顔に出さないように気をつけた。さっきみたいに、淋しがらせたらイヤだからね。
「魔力を調べるのは、いつにする?今から調べるか?」
フィオ様からの問い掛けに、私は首を縦に振って頷いた。
「はい。今からで良いです」
「分かった。準備させよう」
フィオ様はテーブルの上に置いてあるベルを手に取ると、チリンチリンと鳴らした。
フィオ様は、簡単に『準備させよう』と言うけど、そんな簡単に準備出来るものなのかな?そんでもって、そんな簡単に調べられるものなのかな?
私が首を傾げていると、すぐさまオルランドさんが部屋にやって来た。
ー早っ!
鳴らしてから1分も経たないうちに来たんじゃないかな。もしかして、オルランドさんは何かあった時の為に近くにいたのかな?
「オルランド。今すぐにあまり威力のない普通の魔石を1つ用意してくれ。そうだな、私が使う用の水の魔石が良い」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
オルランドさんは、それだけ言うと、すぐに踵を返して部屋から出て行った。
来るのも早ければ、出て行くのも早かった。
「他に必要な物はないんですか?」
「ない」
フィオ様の断言に、私はびっくりした。
ー必要な物って、魔石1つだけで良いの?
他に何もいらないなら、本当に準備は簡単だし、すぐに調べられるのも納得だ。
「準備、簡単なんですね。調べるのはどうですか?簡単ですか?」
「ああ、調べるのも簡単だ。すぐに終わる」
「そうなんですねー。あー、ドキドキしてきました」
私は胸元を手で押さえた。心臓がいつもよりもドキドキしているのが分かる。
「そうか、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
私はフィオ様にそう言うと、スーハースーハーと深呼吸した。
そんな私の様子を見て、フィオ様が笑い声を上げた。
「何ですか。何がおかしいんですか?」
ちょっとムッとしてしまったのは、仕方ないと思う。
「いや、すまない。緊張している様子が微笑ましくてな」
「えー。微笑ましいですか?人の気も知らないで。私の緊張なんて、そりゃフィオ様には分かりませんよね」
ぶー。私は唇を尖らせた。
最初から魔力のあるフィオ様には、私の気持ちなんて分からないんだからー。
「大丈夫だ。例え魔力がなかったとしても、ルーナに不自由がないようにするぞ」
「えっ?そこは『きっと魔力はある』って言うところじゃないですか? 」
「いや。軽率な発言は出来ない。ぬか喜びさせる訳にはいかないからな」
「そうですか」
フィオ様はきっと出来ない事を出来るとは言わない、きちんとした人なのかもしれない。
コンコン。
部屋の中にノックの音が響き、オルランドさんの声が聞こえてきた。
「旦那様、ご用意が出来ました」
「そうか。入れ」
「失礼致します」
オルランドさんが持って来てくれたのは、小さい碧い魔石だった。
こんな小さいので大丈夫なのかな?
ちょっと心配になるけど、大丈夫らしい。フィオ様が『これで良い』と言っていた。ふーん。
オルランドさんは、再び部屋から出て行った。私の魔力調査には同席しないようだ。
「それで、これでどうやって調べるんですか?」
「簡単だ。これを握るって念じるだけで良い」
「えっ!?そんなに簡単なんですか!本当にすぐに終わりますね」
「だろ?」
「フフっ。はい」
フィオ様のその言い方が可愛くて、つい微笑んでしまった。
もしかしたら、さっきフィオ様が笑ったのはこんな感じだったのかもしれない。まあ、私の場合は可愛いの意味が違う気がするけど。どうせ、『また妹の昔を思い出した』とか、『子供のやる事って微笑ましいよな』って感じだろうけど。
「それで、念じるって何を念じたら良いのですか?」
「この魔石は水の魔石だから、水が出るように念じたら良い。ただ、出し過ぎないように注意する事ように」
「出し過ぎないようにって、どうしたら良いのですか?」
「少しだけ水が出るように想像するんだ。魔力を引き出すには、想像力が大事なんだ。こうなると良いという想像をし、それを念じるんだ。さあ、想像してみなさい」
私は頭の中で、水がチョロチョロ湧き出る様子を想像した。水源のイメージだ。
「想像出来たか?」
「はい」
「では、これを握ってみなさい」
「はい」
フィオ様から魔石を手渡された私は、魔石を掌に乗せて、まじまじと見た。
見た目は普通の宝石と同じなのに、これに魔力が詰まってるなんて、信じられない。
まあ、信じられなくても、握ってみるけどね。
スーーーーハーーーー。
一度大きく深呼吸をして、心を少し落ち着かせてから、ギュッと握る。
ギュッ!!
思わず目も一緒に閉じてた。しまった。これじゃ、何が起きても起きなくても分からないや。
目を開けて、魔石を見てみると…。
チョロチョロチョロ…。
「あっ!あっ!水が出てる!!わーー、わーー、わーー、すごい!!フィオ様、見て下さい!水が出てますよ!」
「本当だ。出てるな。良かったな、ルーナ」
「はい!良かったです」
チョロチョロチョロ…。
話している間にも、水が出続けている。
「えっ、えっ。どうしよう。止め方が分からないよ〜」
水が手から溢れそうなのを見て、止めようとするけど、オロオロしちゃうばかりで止められない。
「落ち着きなさい。大丈夫だから」
フィオ様にそう言われても、無理。落ち着けない。
どうしよう。どうしたら良いの?
もうダメ。水が溢れる。
「キャーーー!!!」
「うわぁ!」
バチャアっ。
ポタポタポタ…………。
とうとう水が溢れて動揺した私の限界が来て、水がいきおいよく噴き出した。まるでクジラの潮吹きのように。
その水は私と、水を止めようとして私の手に手を伸ばしていたフィオ様に直撃した。
ポタポタポタポタポタ……。
水が滴り落ちる音だけが部屋に響く。
ーああ、やっちゃった。すみません。




