アクアマリンのような魔石
「あの、ませきって何ですか?」
「えっ?魔石を知らないのか?もしや、そちらの世界には魔石はないのか?」
キョトンとした顔で尋ねてくるフィオ様。
えっ?知らない事に、そんなに驚かれる物なの?まさか、聞き間違いで『遺跡』じゃないよね?
「『ませき』なんて、ありませんでしたよ?」
「そうなのか」
フィオ様はそう言うと、1人でブツブツと小声で独り言を言い出した。
よくよく耳をそばだてて聞いてみると、こう言っていた。『異世界はどうやって生活しているんだ?』と。
いや、普通に生活してましたけど。
『どうやって生活している』と言うって事は、生活に必要な物なのかな?
「あのー、フィオ様?それで、『ませき』とは一体何なのですか?」
まだ独り言を言いながら考え込んでいるフィオ様をちょっと待って、独り言が止んだ隙に急いで尋ねる。
フィオ様は、自分の世界に没頭していたところに私から質問を投げかけられたものだから、ハッとなった。
目を2・3度ほど瞬いて、現実に戻ると、私に答えた。
「魔石とは、その名の通り、魔力を帯びた石の事だ」
「ああ!なるほど!」
ー『ませき』の『ま』は魔力の『魔』なんですね!
私は話が通じた事に、喜んだ。けど、大事なのはそこであって、そこじゃない。
魔力があるって事は……。
「えええ!!この世界には魔法があるんですか!!」
「まほう?ああ、魔法か。ある。だが、この国では魔術と呼ばれているが」
「おおお!!!魔術!!」
魔法でも魔術でも、すごい事なのに変わりない。
ーーわー、すごいすごい!!私にも使えるかな?
魔術が出来たら、良いな!これはぜひとも教えて貰いたい!
「フィオ様!ぜひとも私に魔術を教えて下さい!!」
私は、テンション高いままにフィオ様にお願いした。魔術に関するこの興奮は、しばらくは冷めないだろう。
「…ああ、分かった」
「わぁい!ありがとうございます!!」
フィオ様の返事に、私は嬉しくなった。バンザイをした後で、フィオ様の両手を握ってお礼を言う。
急に手を握ったものだから、フィオ様がびっくりしてたけど、そんなのは気にしない。今の私には気に出来ない。
「いや、別に良い。ただ、その様子だとあちらの世界には魔術はないのだろう?だとしたら、ルーナには魔力があるのか分からない」
「えっ……」
そうか、魔力か。私には無い。
ーあああ、無情…。
私のテンションは、魔術によって上げられ、魔力によって下げられた。
生粋の地球人、生粋の日本人である私に、魔力があるとは到底思えないから。
「ああ、その、そう落ち込まないでくれ。魔力があるか調べてみよう。なっ?」
「えっ?」
私は項垂れていた顔を上げて、フィオ様を見上げた。
「…魔力の有無を調べてみれば良い」
「そんな事、出来るんですね」
「ああ、大丈夫だ」
「分かりました。調べて下さい」
「分かった」
私のお願いに、フィオ様は頷いてくれた。
ーーあー、魔力がありますように。魔力がありますように。魔力がありますように。うう〜、ドキドキするぅ!
フィオ様は、首にかかっている金色のチェーンを引っ張り上げて、服の中に入っている部分を取り出した。すると、そこには色とりどりの宝石があった。
ーわぁ、すごい!キレイ!!
ルビーの様な紅い宝石、ムーンストーンの様な乳白色の宝石、エメラルドの様な翠の宝石、トパーズの様な黄色の宝石、オニキスの様な黒い宝石、透明なダイヤモンドの様な宝石の6つだ。
それに、さっきのアクアマリンの様な宝石、じゃなくて魔石を合わせると全部で7つ。
アクアマリンが魔石なのだったら、きっと他の6つも魔力なのだろう。
ー魔石って、キレイな石なんだなー。
そして、大きい。
まあ、大きさは大きいのがあれば、小さいのもあると思うけど。それでも、フィオ様が持っているのは大きい物だ。
ー大きい方が魔力も多いのかな?
だとしたら、フィオ様は魔力の多い魔石を7つ持っている事になる。いや、これ以外にも持っているのかもしれない。
『大きい=魔力が多い』というのはあくまで私の推測だけど、もしこの推測が正しいとしたら、フィオ様はとんでもないお金持ちなのかもしれない。だって、魔力の多い大きい魔石なんて、高いに決まってる。
ー私、もしかして、すごい人の所にいるんじゃないでしょうか。




