目覚め
ぼんやりと目を開ける。
今、何時だろう?
ぼうっとした意識の中、右を見て、左を見る。
あれ?おかしいな。壁掛け時計が見当たらない。
今は何時なの?
窓を見ると、外は明るかった。
さぁっ。
一瞬にして血の気がひいた。
「しまったぁ。遅刻だ!」
がばっと勢いよく起き上がり、ベッドから降りようとする。
そこで初めて気がついた。
ここが見覚えのない部屋だという事に。
さっきとは違う意味で血の気がひいた。
「ゆ、誘拐?」
取りあえず、自分の身を確かめる。ケガをしているところはなさそう。
良かった。
服もしっかり着ている。更に良かった。
少しだけ安心出来た。
でも、まだまだ本当の安心なんて出来ない。怖い。
それにしても、私を誘拐なんてしても、ウチには身代金なんて払うお金ないのに。
ウチはビンボーですよー。だから、お家に帰してー。
でも、家に帰るにしても、ここはどこー?帰り方さえも分からないよー。
うぅ。帰り方を探るには、取りあえず、現状把握に努めないとだね。
私はキョロキョロと部屋の中を見渡す。
部屋はとても広く、ちょっと見ただけでも分かるくらい、調度品が豪華。でも、むやみやたらと飾り立てているわけではなくて、部屋全体の調和がとれている感じ。
落ち着いた雰囲気で品良くまとまっている。
まるでホテルのスイートルームみたい。
ベッドも大人5人位寝られるんじゃないかと思うくらい広い。
ベッドの横にはサイドテーブルが置かれている。その上には、私のバッグが置いてあった。
「スマホ!!」
バッグを見て思い出した。もっと早く思いつけよ、私。
スマホがあれば、家族に連絡出来るじゃない!
バッグを開けて、スマホを探す。
「ああ、あった」
お母さんの番号を出し、電話をかける。が、
「つながらない。うぅ。じゃあ、お父さんに」
しかし、お父さんにもつながらない。というか、呼び出し音が鳴る事もなければ、電源を切っているか〜のアナウンスもない。
どういう事?もしかして、壊れちゃったのかな?
3度目の正直と弟の玲ちゃんにもかけてみるが、結果は同じ。
「ひぃ、どうしよ〜」
何か原因が分かるかもと、よくよく画面を見てみると、圏外になっていた。
そっか、圏外だったのか。もっと早く確認しておくべきだった。
でも、圏外だからうんともすんとも言わなかったのかな?
まあ、それは置いておいて。
連絡が取れないなら、これからどうしたら良いかな?
状況がよく分からないから、身動きがとれない。
このベッドまで運んできた人物が誘拐犯なら、どうにかしてここから逃げるしかない。
だけど、もし何かがあって助けてくれたのだとしたら、ここはどこなのか、そしてどうしてこんな状況になっているのかを聞きたい。
それに、本当に助けてくれたのであれば、お礼を言いたい。
それにはまず、どうして気を失っていたのか、気を失う前の状況を思い出してみないと。
目を閉じ、思い返してみる。
まずは学校。ちゃんと行った。ちゃんと授業を受けた。
次は放課後。同じクラスの友達の美咲を浩恵とおしゃべりした。今日はスーパーのタイムセールに行くから、ちょっとの時間しか話せなかったけど。
次はそのスーパー。学校から家までの間にある。
ちなみに学校へは歩いて通える。
なので、歩いてスーパーに向かった。今日のタイムセールではお肉が安くなる為、ゲットするべく意気揚々と戦場に向かった。
向かったけど…。
スーパーには行ったっけ?行けなかった?たどり着けなかった?
スーパーでお肉を買った記憶がない。
ああ、ここら辺の記憶がモヤモヤしてる。ここら辺の記憶がカギになりそう。
頑張れ、雫。思い出すんだ!
あそこの信号の所で横断歩道を渡って、まっすぐ進んで左に曲がった。
その先に新しいマンションを建ててる工事現場があって、その横を通って…。
そうだ!!
そこで確か突風が吹いたんだ。
ああ。そっか。思い出した。
そこで私は死にそうになったんだった。