フィオ様への相談事 1
さて、フィオ様呼びのお墨付きを頂いたところで、ぼちぼち本題の相談に入りたいと思う。肝心のフィオ様は再びノートをめくっておられる。
まだ終わらないのかな?はーやーくー。
心の中でそう言ったのが通じたのか、フィオ様がノートをめくる手を止めて、パタンと閉じてくれた。
「これを返す。ありがとう」
フィオ様がノートを差し出してきたので、受け取る。
「どう致しまして。それで、ノートはいかがでしたか?」
私はフィオ様が日本のノートにどの様な感想を持つのか気になった。
「これは素晴らしいな!」
フィオ様は瞳を輝かせた。
気に入って下さったようで何よりです。
「まず紙が素晴らしい!とても質の良い紙だ。とてもなめらかで、書きやすい。そしてこの様にまとめられていて、便利だ」
ほうほう、なるほど。
「あの、こんな風にまとめられたノートって無いんですか?」
「ああ、無いな。本ならばこうして綴じられているが、ただ書く為の紙は綴じられていない」
「そうなんですねー」
ーじゃあ、ノートを作ったりルーズリーフを作ったりしたら良いかな?需要ありそう?
私は商品のアイディアを考えていった。後で、この国の紙について教えて貰おうかな。
私が色々考えていると、フィオ様は次に文字について語り出した。
「異世界の文字は興味深いな。色々な種類の文字があるようだ」
「そうですねー」
ノートには平仮名、カタカナ、漢字、記号、アルファベットなどが書かれている。確かに改めて考えると種類が多いよね。
「異世界には他にも文字があるのか?」
「ああ、ありますね」
「そうか。それは面白い。今度、異世界についてじっくり聞かせてほしい」
「分かりました。良いですよ」
私はフィオ様の要望に首肯した。
「では、本題に入ろうか。相談事があるとの事だったが」
「はい」
私はノートを開いて、シャーペンを用意した。それを見て、フィオ様がちょっとそわそわしてた。
シャーペンも気になるのだろう。けど、今は相談に入ったところだから我慢しているに違いない。分かりやすい。何か可愛い。
後で貸してあげよう。
「まず最初の相談ですが、異世界へ行く事が出来るか知ってますか?」
私の率直な質問に、フィオ様は黙って首を振った。
「申し訳ないが、私は知らないな」
「そう…ですか…。ですよね」
多分知らないだろうと思ってたけど、その返答にやっぱりがっかりしてしまった。
すると、私が落ち込んだ事に気がついたのか、フィオ様が申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
「すまない」
「!!いえいえ!大丈夫です!こちらこそ、すみません」
もう〜、私ったら何をやってるのかね。落ち込むのは後だよね。ここで落ち込んで、フィオ様に罪悪感を持たせるなんて、私は何てバカなんだ!!
「きっと、異世界への行き方はご存知ないだろうと思ってましたから、大丈夫です」
私はニッコリ笑って、『全然平気』アピールをした。これでフィオ様の罪悪感がなくなれば良いな。
「では、次の相談にいきますね。次は私の名前についてです。私の名前って、この国の人の名前とは違うと思うんですよね。なので、この国風の名前にするか、異国から来たとしてこのままの名前で通すか、どっちにしたら良いと思いますか?」
「名前か。そうだな…」
フィオ様が少し俯いて考え込んだ。
「その前に、君の名前、月ヶ瀬雫とはどういった名前なんだ?」
「はい?どういった名前とは?」
フィオ様の言った事の意味が分からず、首を傾げる。
「言葉には意味があるだろう?例えば、この国では名前を付ける時に神や王族にあやかって子供に同じ名前を付けたりする。また、物の名前を付ける者もいる。君の名前にはどういった意味がある?」
「ああ、そういう事ですか。私の姓の月ヶ瀬は、『月』の『浅瀬?』です。すみません。瀬が上手く説明出来ません」
「いや、それで十分だ。それで名前の方は?」
「雫は多分『水滴』ですかね」
「そうか。では、つなげると月の浅瀬の水滴になるわけだな」
「そうですね」
「うん。では、こうしよう。この国でも本当の名前は月ヶ瀬雫とする。だが、この国では馴染みのない名前だから、愛称を付ける事とする。どうだ?」
フィオ様が『本当の名前』と言った事に、頭の中に???が浮かんでいたが、その後に続いた言葉に納得した。
「良いですね!良い考えだと思います!」
「そうか。なら良かった。では、愛称はルーナにしよう。この国の月の女神の名前だ。月の天女にはぴったりだろう?」
フィオ様はおかしそうに笑って言った。
私は言われた事にびっくりして、思わず大声で叫んでしまった。
「!?。月の天女じゃありません!!」




