会いたい想いとこれからへの道標
私が相談内容についてノートに書き出していると、オルランドさんが食器を下げに来てくれた。その際にフィオ様の事を教えてくれた。
「旦那様はお帰りになられましたよ。今、食事を摂られております」
「もう帰って来られたんですね。分かりました。じゃあ旦那様のご準備が整いましたら、教えて下さいね」
「分かりました」
もう相談内容はまとまったから、あとはオルランドさんが呼びに来てくれるのを待つばかり。
ちょっと暇になったから、スマホに手を伸ばす。
ロック画面は家族の写真に設定してある。それを見て、思わず言葉が漏れてしまった。
「会いたいな…」
毎日会ってたのに、昨日も今日も会ってない。そして、きっと明日も明後日も会えない。淋しいな。
ポロっと涙がこぼれ落ちた。
ああ、しまった。泣かないように気をつけてたのに。
泣いたってどうしようもない事くらい分かるから。
帰りたい。帰りたい。帰りたい。家族に、友達に会いたい。
想いが溢れて、声をあげてわんわん泣いてしまいたくなる。でも、今はダメだ。これからフィオ様に会うのに、泣き顔は見せられない。
唇を噛み締めて、目をぎゅっと瞑る。
「う〜〜〜〜」
鼻で大きく息をすーはーすーはーと何回かすると、徐々に落ち着いてきた。
ー良かった。
泣くのは後で良い。今はこれからの事だ。
すぐに日本に帰る方法があるならば、それに越した事はない。けど、可能性は低そう。
なら、他の方法を探す為にはお金が必須だ。頑張って稼がないと。
フィオ様に地球の情報を買い取って貰うのはどうだろうか?いやいや、やっぱりそれはナシ。いくらフィオ様がお金持ちだからって、フィオ様にばかりお金を払わせるのは気がひけるよ。
じゃあ、どうしたら良いかな?
私の持ってる物を売る?
ううん。これもダメだ。こっちにない技術や素材で作られた物だから、売ってから何が起こるか分からない。どこで手に入れたんだとか、どうやって作ったんだとか聞かれても答えられないからね。
それに、万が一、変な騒動に巻き込まれたら嫌だし。
そもそも買い取って貰えるかも分からない。
他に良い方法はないものか…。持ってる物を売れないならば…。
「ないなら、作れば良いんだ」
地球の、日本の技術を売れば良いんじゃない?日本の商品を作って売れば良いんじゃない?
そっか、そうだね。それが良い!
これなら真っ当に稼げて良い。
そうと決まったら、フィオ様に要相談だね。
私はノートに『8.異世界の技術やその技術を元にして商品を作って売りたい』と書き足した。
おぉ!!!なんか、道が開けた気がする。
実際にはまだまだで、さっきとあんまり変わらないんだけど、気分はさっきとは全然違う。
私は、フィオ様にずっとお世話になりっぱなしになるのが心苦しいんだという事に気がついた。
保護して貰って、雇って貰って、ここに住まわせて貰う。
それはフィオ様にとっては大した事じゃないのかもしれない。でも、私にとっては大した事だ。
フィオ様とオルランドさんしか、私の正体を知る人がいない。だから、2人(特にフィオ様)を頼りにするのは仕方がない。それに、フィオ様以上に頼りになる人はそうそういない気がする。勘だけど。でも女の勘、乙女の勘だもん。きっと当たりに違いない。
でも、私は仕方がないで済ませたくなかったんだ。きっと。私自身全然分かってなかったけど。
フィオ様にばかり負担がかかるのはダメなんだ。
働くからお給料を貰えるんだけど、そもそも私を雇う必要はなかったし、使えるかも分からない人材を雇うなんて普通するはずないし。私を雇う事はきっと破格の対応に違いない。コネ入社的な感じで?
だから、フィオ様に頼る以外の方法が見つかって、スッキリした。
ーあ〜、良かった。
両手を上に上げてのびーんとしているところに、オルランドさんが私を呼びに来てくれた。
「旦那様がお待ちです。応接室まで案内しますね」
「お願いします」
私はシャーペンを急いでペンケースに入れて、ノートとペンケースをバッグにしまった。プレゼントしても良い物、外してた腕時計も忘れずに入れる。
これで準備はオッケー。
私はオルランドさんの後ろに続いて歩き出した。




