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男装しよう。そうしよう。

私が部屋の中を見渡していると、オルランドさんが手にしていた服を渡してくれた。


「こちらが仕事着になります。申し訳ございません。貴方に合うサイズのメイド服の用意がないのです」

「そ、そうなんですね」


なんと、手渡された服は男の子の服だった。いや、ズボンには慣れてるし、楽だから良いんだけどね。でも、メイド服はちょっと着てみたかったな。

『お帰りなさいませ、ご主人様☆』

なんちゃって。


「メイドの仕事もやってもらう事になりますから、メイド服を用意致しますね」

「お願いします」


おぉ。メイド服も貰える!メイドカフェのような感じじゃないだろうけど、可愛いし嬉しいな。


「それで…お話しておかなくてはならない事があるのですが…」


オルランドさんが歯切れ悪く言い出したから、私はちょっと首をかしげた。何か悪い話しだろうか。


「はい?何でしょうか?」

「この屋敷にいる使用人についてなのですが、この屋敷には住み込みの者と通いの者がおります」

「はい」

「現在、住み込みの者は男性使用人のみで、女性の使用人は通いで働いて貰っております」

「はい?それってどういう事ですか?何か理由があるんですか?」


女性の住み込みはダメって事なんだよね?何で?


「それは、実は旦那様が女性嫌いだからです」

「はっ?」


私はびっくりした。だって、フィオ様は私に対して特に嫌悪感を表してなかったから。


ーうーむ。私の事を子供だって思ってるから大丈夫だって事?子供は平気なのかな?何か、自分の事を子供って言ってて悲しくなってきたよ。ううう。


「驚かれるのも無理はありません。旦那様が女性嫌いだと知っているのはごく少数ですから」

「そうなんですか?」

「はい。旦那様は社交に関しては、女性相手でも笑顔で対応されますし、丁寧に対応されますから」

「なるほど。営業スマイルってやつですね」

「はい?」

「いえ、こっちの話です」

「はぁ」


ちょっと日本の事を言っちゃったので、オルランドさんが戸惑ってしまった。すみません。


「じゃあ、私に対しても取り繕っていたという事ですか?」


私が話しを戻すと、オルランドさんが『いいえ』と首を振った。


「旦那様は貴方を月の天女だと思っておられましたからね。取り繕うなんて事はされなかったと思いますよ」

「そうなんですか?」

「はい。嫌悪感よりも好奇心が勝っていると思います」

「なるほど」


特殊な存在だから、性別なんか二の次って事だね。


「それと、まだ子供だから大丈夫なんではないかと」

「ああ、そうですか」


私は思わず、不機嫌な低い声を出してしまった。だって、いくら身長が低いからって子供って言われるのは嫌なんだもん。

感じ悪い態度をとってほしいって訳じゃないから有り難いんだけど、何か癪だ。


「子供なら女の子でも平気なんですか?」

「恐らくは…。旦那様はあまり子供と接する機会がございませんので、あくまで推測になりますが…」

「そうなんですねー。でも、どうして女性嫌いになってしまったんですか?何か理由があるんですか?」

「理由はございます」


オルランドさんはそう言うと、遠くを見つめた。


「あれは、旦那様が5歳の頃の事です。旦那様には5歳年上の姉君様がいらっしゃるのですが、その姉君様から無理やりドレスを着させられたのです」

「無理やり女装させられたって事ですね」

「はい。それがよくお似合いでして、その後も何度もドレスを着させられておられました」

「ああ、よく似合いそうですね」


フィオ様の幼い頃を想像すると、ドレスの似合う可愛い女の子しか思い浮かばない。今は凛々しいお顔立ちだけど、幼い頃はさぞや可愛かったに違いない。きっと天使のようだっただろうな。

うわ〜、見てみたかったなぁ。


「ご成長されましたら、ドレスはお似合いにはならなくなったのですが、今度は年頃のご令嬢に囲まれるようになりまして」

「ああ」


それはそうだろうな。容姿端麗でお金持ちのご子息ともなれば、周りがほっとかない。


「そのご令嬢方は皆様積極的でして…。『狩りの獲物になった気分だ』と旦那様はおっしゃっておられました」


その表現は言い得て妙ですな。正にその通り。肉食女子からしたら、狩りの獲物に違いないもの。


「他にも色々ございまして、旦那様は女性嫌いになってしまわれたのです」


その『他にも』が気になるけど、フィオ様が可哀想な気がするから、聞かないでおこう。辛い体験談を知られたくはないだろう。


「はあ。おモテになりすぎるのも大変ですねー」


まあ、私はそんな経験ないけどねー。彼氏ナシ歴=年齢ですから。言ってて悲しくなる。


「そういう訳で旦那様は女性使用人は住み込みにされないのです」

「分かりました」

「なので、女性にしか相談出来ない事がありましたら、仕事の休憩中に相談されると宜しいかと思います」

「分かりました!」


確かに、女性にしか相談出来ない事ってあるよね。例えば、下着の事とか。流石に下着を用意して貰うのは憚られる。相談する時に、併せて用意するお金を頂けるかも聞いてみようっと。



その後、部屋の事や食事の事等、生活や仕事、お屋敷に関する説明を聞いた後、仕事着に着替えた私は困惑した。シャツがちょっとキツいのです。胸の辺りが。小さい男の子用だから、胸囲が合わないらしい。どうしよう〜。でも、他のを用意してほしいなんて言い辛い。だって、ただでさえ色々お世話になってるのに、これ以上余計な事にお金をかけさせる訳にはいかないから。例え、お金持ちであっても。

それに、なるべくフィオ様に不快な思いはさせたくないし。

そうだ!さらしを巻けば良いんじゃない?って、さらしが無いや。何か他で代用出来ないかなー?

ゴソゴソとバッグを漁るとタオルが出てきた。フェイスタオルだから長さもあるし、丁度良いかも!


巻いてみると、長さが微妙だった。一巻きよりはふた巻きしたいんだけど、そうするには長さが全然足りない。考えた私は、ハサミでチョキチョキする事にした。

ちょっと幅が狭くなるけど、問題ない。更にソーイングセットを取り出して縫い繋げる。これで長さが大丈夫になるはずだ。良かった良かった。


こうして私のなんちゃって男装が始まった。


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