新しいお部屋
オルランドさんは私の話を聞いて、異世界の事をちょっと信じられたみたい。でも、耳にした事がない言葉なんて、外国の言葉ならたくさんあるよね?
よく異世界の事を信じられたな。外国から来たんじゃないかって思わなかったのかな?
私がそう尋ねると、オルランドさんが答えてくれた。
「貴女はおかしな現れ方をしましたからね」
「えっ!?オルランドさんも私が月から降って来たのを見てたんですか?」
「いいえ。私は見ておりませんよ」
「じゃあ、どういう事ですか?」
私が首をかしげて尋ねると、オルランドさんが思い出しながら語ってくれた。
「私は、このお屋敷の施錠を任されております。一昨日の夜も全ての出入り口に鍵をかけました。それなのに、次の日の朝には貴女が客室にいたのです」
「はぁ」
「良いですか?旦那様が私に気付かれずに外に出るのは難しい事です。自室のベランダから外に降りる事は可能ですが、カーテンやシーツは異常ありませんでしたし、縄などで下に降りた形跡もありませんでした」
「はい」
「という事は、外には出ていないという事になります。また、もし何らかの方法でベランダから下に降りたのだとします。その後に貴女を見つけたとして、貴女を担いで2階のベランダへよじ登る事は旦那様には不可能でしょう。では、貴女はどこから入って来たのでしょうか?」
私はゴクッと息を飲んだ。
「それらを踏まえると、貴女の現れ方は不自然なのです」
「そうですね」
「なので、月から降ってきたと言われて、思わず『なるほど』と思ってしまいました。月から降ってきたのであれば、異世界から来たと言われても納得出来てしまったのです」
「なるほどー。それで外国から来たんじゃないって分かったんですね」
私はオルランドさんの説明に納得した。実質不可能な状況でいきなり私が現れたら、どこから入って来たんだってなるよね。
「それでは話を戻しますが。色々な仕事をやってみたいとの事ですが、どの様な仕事が宜しいのでしょうか?」
「馬っ!!馬のお世話をやってみたいです!」
「……馬でございますか。分かりました。難しいかもしれませんが、馬丁と相談してみます」
「宜しくお願いします」
その昔、乗馬を習っていた事を思い出しながら、お願いした。あっ、さっき馬に乗れるって言ったけど、乗ってたのは遠い昔の事だから、もう乗れないかもしれない。ブランクあっても大丈夫かなぁ?でも、こっちで馬に乗る事なんてそうそうないと思うから、まいっか。
「他には何かありますか?」
「はい。庭師さんのお手伝いと調理師さん?料理人さん?のお手伝いがしたいです」
「分かりました。そちらも聞いてみます」
「お願いします」
「他はどうですか?」
「うーん。他に、特にこれがやりたいっていうのはないと思います」
「そうですか。先ほどおっしゃっていたやりたい仕事以外の仕事もお願いする事になると思いますが、それでも宜しいですか?」
「もちろんです!」
ここの事が何も分からないのに、ここで働かせて貰えるのだ。私にやれる事があればやりますとも。出来なくても、出来るように頑張りますとも。
「では、これから雇用の契約を交わしましょう」
「分かりました」
と頷いて、ハッとした。
私、お給料について何も要望を出してなかったよ。衣食住の保障はお願いしたけど…お給料は大丈夫かな。衣食住の保障の代わりにお給料なしだったら、めっちゃ困る。お願いしなくちゃ。
あと、契約書の文字が読めなかったらどうしよう。騙すような人たちではないと思うし、信じたいと思うけど、不安に思うのは仕方がない。
どうか文字が読めますように。
契約書はあらかじめご了承してあったようだ。オルランドさんが差し出してくれたのを受け取ると、私は契約書を覗き込んだ。
ーよ、良かったぁ。文字は大体読めるや。
よく分からない単語などがあるけど、概ね理解出来た。どうやら、基本文字は読めるらしい。日本語で言うなら、ひらがなが読めるような感じ?
読めない箇所を教えて貰いながら読み進めた後、オルランドさんが音読した上で細かく説明してくれた。
住み込みで働く事、部屋は用意して貰える事、必要な衣服(仕事着を含む)を用意する事、食事は3食出る事、職種に応じたお給料が出る事、最初しばらくは見習いとして働く事、お給料も見習いのうちはそれに見合った金額になる事、勉強の時間を設ける事、休暇が週1日ある事などが書かれてあった。
お給料の金額は職種に応じるとあったけど、私は特殊な働き方をするから、フィオ様が帰って来たらお話合いをするそうな。お給料の金額に関しては、また別に契約書を作るんだって。
手間かけさせて、すみません。
無事契約を交わすと、部屋を移動した。今までの客室から使用人部屋に行く。途中、何度もキョロキョロしてしまった。
前を歩いていたオルランドさんが振り返ってクスッと笑った。
「気になりますか?」
「はい。やっぱりこの置物とかあっちの絵とかって高級な物ですよね?」
「そうですね」
ーひぇ〜、やっぱり。壊したりしないように気をつけよう。
私が昔住んでいた家は日本家屋だったから、こんな高級な物が溢れてる洋館なんて、おっかなびっくりだよ。弁償するお金もないから、尚更だ。ガクブルガクブル。
ガクブルする場所を通り抜けたら、ある部屋の前でオルランドさんが足を止めた。この部屋が私の部屋なのかな?どんな部屋かな?う〜、ドキドキする。
「こちらの部屋になります」
オルランドさんがガチャっとドアを開けた。そのままドアを押さえて、「どうぞ」と先に入らせてくれた。紳士ー。
「うわぁ!」
ベッドがあって、小さいテーブルがある。デスクとイスのセットもある。他には何があるのかな?
さっきの客室よりは狭いし質素だけど、私はこの部屋が気に入った。カントリー風な感じと言えば良いのだろうか?素朴な感じで落ち着く。
「オルランドさん、ありがとうございます」
「いえ。お礼は私ではなく、旦那様に。気に入りましたか?」
「はい!でも、オルランドさんもありがとうございます。実際にやってくれた人は違うのかもしれませんが、この部屋を掃除したり生活をし出来るように整えて下さったんですよね?」
「いいえ。これも仕事ですから。お気になさらずに」
そう言ったオルランドさんだけど、心なしか照れてるように感じる。そんな反応があると、お礼を言った私までニマニマしてしまう。
でも、私のニマニマの理由はそれだけではない。それはもちろん、新しいお部屋だ!今までは客室だし落ち着かなかったけど、自分の部屋ができた。これからはここで生活するんだ!
ーよーし、頑張るぞー!!




