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忘れてた質問と仕事の話

しばらく部屋で待っている間、オルランドさんが用意してくれたお茶を飲んだ。美味しい。こんな美味しい紅茶を入れられるようになりたいな。紅茶だけでなく、美味しいお茶を入れられる技能を持ってるって良いよね。


私はよく味わって紅茶を堪能しながら、今後に必要な事を考えた。

まず、このお屋敷にいる人たちやお屋敷内でのお仕事を学ぶ事。

次にこの国について知る事。言葉、歴史、風土、文化等。何か、この国だけでも勉強しなくちゃならない事が結構ある。大丈夫かな。

その次に周りの国。特に月の天女のお話がある国については言葉も学ばなければならない。は〜、大変そう。

次は…と考えて、そもそも最初に知らなくちゃならない事を思い出した。それは、日本に帰る方法があるかという事。私のお守り以外に帰れる方法があるなら、それに越した事はない。

簡単に帰れないだろうという思い込みで、学ばなければならない事を考えてたけど、そもそもの大前提を確認しなくちゃならない。

全く、私は何をやっているのやら。


と考えたところで、オルランドさんが部屋に来てくれた。


「オルランドさん、ありがとうございます」

「いえ。こちらもお時間を頂けて助かりました」

「いえいえ」


お互いに感謝を示したところで、ちょっと疑問を覚えた。これからお仕事の話をするのだけど、そもそもオルランドさんは私の事を色々と知っているのかな?どんな風に聞いているのかな?

異世界から来たって事はあまり公にはしたくないんだけど。騒がれたり、マッドなサイエンティストに人体実験とかされたくないよ。


「あの、オルランドさんは私の事をどんな風に聞いてますか?」

「旦那様からは『拾った』と聞いております」

「拾った?」


月から降って来たのを拾ったって事かな?なるほど。


「あとは、『この国の住人ではないので、この国の事がよく分からない』ですとか『頼れる者もいない』ですとか」


ふむふむ。


「それに、『異世界から来た』と聞いておりますよ」


のわぁぁぁぁぁ、しっかり知られておった。何てこった。

フィオ様めぇ。勝手に人の大事な事を言うなんて、ひどい!!ひどすぎる!!


「旦那様からは、『こちらの事が何も分からないので、よくするように』と命じられております」


ふぇっ!?

ひどいと思ったけど、フィオ様がフォローしてくれてる?

うぅ。一言確認や相談してほしかったけど、これじゃ、あんまり怒れないや。


「また、旦那様から『今日、一緒にいてやれなくてすまない。帰ったら話をしよう』と伝言を承っております」


うおぉ、フィオ様が気遣って下さってる。すみません、『ひどすぎる』とか思って。


「フィオレンツォさんは、今はいないんですね。どこかに出掛けてるんですか?」

「はい。本日は仕事に行っておられます。どうしても抜けられない会議があるとかで、大変悔しがっておられました」


そっかぁ、仕事じゃ仕方がないね。しかも会議じゃなおさら。

それにしても


「悔しがる、ですか?」

「はい。色々な事を説明したり、教えたりされたかったみたいですよ」

「ああ、なるほど」


フィオ様は結構世話好きな人なのかもしれない。


「それに、異世界の事も色々と聞きたかったみたいです」


そして、好奇心が旺盛な人なのかもしれない。


「旦那様がご帰宅されましたら、ぜひ話し相手になって差し上げて下さい」

「分かりました」


こちらとしても、もっと色々な事を話し合わないといけないと感じていたので、その申し出は有り難い。


「それで、仕事についてなのですが」

「ちょっと待って下さい。その前に伺いたい事があるんです」

「何でしょう?」

「異世界へ行ける方法があるか知りたいんです」

「異世界へ行く方法ですか。…申し訳ございません。私は寡聞にして存じ上げません」

「そうですよねー」


オルランドさんは申し訳なさそうにしているけど、私は知らないだろうと思っていたので、全然気にしないでほしい。


「旦那様には?」

「いえ、昨日聞くのを忘れておりまして…アハハハハハハ」


私はちょっと居た堪れない思いを誤魔化して笑った。だって、最初の方に聞くべき質問を忘れてたなんて、ちょっとやっちゃったよね?


「無理もありません。いきなり異世界に来られたのですから、冷静に考えるなんて難しいと思いますよ」

「オルランドさん…!ありがとうございます!そう言って貰えると慰められます」


オルランドさんは、私の言動から心情を察してくれたようだ。何て有能なんでしょう!流石、執事さん!そして、何て優しいんでしょう!心が温まります。


「いいえ。では、旦那様が戻られたら伺ってみましょう」

「はい」

「では、仕事の話をしましょう」

「はい、お願いします」

「仕事は色々な事をやりたいとの事ですよね?」

「はい。毎日変わるのでも良いですし、1週間交代でも構いませんが、なるべく色んな職種のお手伝いが出来ればと思ってます」

「分かりました。では、出来る事ですが、確か料理と掃除、裁縫、花の世話が出来るそうですね?」

「はい。仕事に活かせるのはそれくらいだと思います。あと、洗濯は教えて頂ければ出来ると思います」


多分、この世界に洗濯機は無いと思うんだよね。それだと、教えて貰わないと分からない事が多いと思う。どんな服をどんな風に洗うだとか、この服はゴシゴシ洗っちゃダメだとかあるよね、きっと。


「分かりました。仕事に活かせない事でも構いませんので、他に出来る事があったら教えて下さい」

「うーん、そうですねぇ。あっ、お花をいけられます!あとはお茶を点てられます。日本舞踊を踊れます。護身術が使えます。馬に乗れます。野菜を育てられます。あと、ピアノがちょっと弾けます。それくらいでしょうか」

「にほんぶよう?ぴあの?ですか?」

「ああ、こっちには無いですよね」

「そうですね。耳にした事がありません」

「私がいた世界での踊りや楽器ですからね」

「そうなのですか。それにしても、本当に異世界から来られたのですね」

「はい。信じてなかったんですか?」

「旦那様が仰った事ですので、信じてなかったわけではないのですが、心のどこかで信じられないと思っていたのかもしれません」

「なるほどー」


そういう事ってありますよねー。

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