尊敬します
「なぜできないの? あなたそれでも騎士なわけ? 国のお金貰っといてできないとか何様よ!」
「す、すいません……」
「世の中謝って済むものじゃないのよ!」
比較的裕福な国ライヒ。もちろんホームレスもいるにはいるが、大抵の人はお金に困っているということはない。
だが、命はお金でも買えないので、騎士に依頼をする人が多数。ライヒから少し離れた山や草むら、道路や砂漠などに出現するモンスターを仕留めて安全を守っている。これまでに、ライヒの人々がモンスターに殺られたという報告はない。ある女性騎士のお陰ともいえよう。
「私共には力不足でござまして……」
「使えない野郎だこと! あなたみたいな愚か者は辞めてしまえばいいのよ!」
「ちょっといいでしょうか?」
おばさんと男性騎士の間に割って入った、数少ない女性騎士。
「その依頼、私共がお受けいたしましょう」
姿勢が良くスタイル抜群で、赤くて長い髪の毛をなびかせて立つのはかの有名な騎士、アガタ・ロッシ。ライヒを守るベテラン騎士だ。そのアガタの相棒ともいえる男性騎士、ワイアット・スミルノフ。彼女よりは力が劣ってしまうが、それでも十分ベテランの騎士。アガタと違い、ワイアットは青い短髪だ。
「本当に!? まぁ~、ありがとうね。この使えない馬鹿よりも頼もしいわ」
「馬鹿ではありませんよ。騎士は皆使えます。ただ、難易度というものがございますので、仕方のないことなのです」
「あら、そう。まぁ、とりあえずお願いね。十万で足りるかしら?」
「えっ……」
アガタ、ワイアット、そして男性騎士がその札束を見て驚く。
「とっ、とんでもございません! こんなにいただくほどの事では……」
「気持ちよ。ほら、受け取りなさい。あんた! 立派な騎士になりなさいよ」
おばさんはアガタに札束を渡し、男性騎士に助言した。愛想良くなったのはアガタのお陰ともいえよう。
「あっ、ありがとうございます。えーっと、アガタ・ロッシさん……ですよね? 助かりました」
「いいえ。あなたも強くなって、ああいう人をぎゃふんと言わせられるようになれるといいですね」
「が、頑張ります……!」
男性騎士は礼をして歩いていった。
「いいんですか? せっかく暇ができたのに……」
「終わったあとゆっくりすればいい。さぁ、行こう」
アガタはワイアットにお出掛けしようと誘って歩いていたところだった。常に鎧を纏っていなければならないので、休みという休みはないのだが、見回りがない日を休日としてゆっくりしている。
「ここのモンスターは強めでしたね、確か。あの男性騎士は新人とはいえませんが、まだ経験が浅いのでここは難しかったのでしょうか」
「そうだね、行かせるのは危険。私らが動かないと誰も動かないだろうし」
「ですね」
国のために動いている、騎士として立派なアガタ。実力も相当で、
「いたよワイアット。囮、頼める?」
「もちろんです」
ワイアットが囮として動いても、決して死なせはしない。殺られる前にアガタが敵を倒してくれる。ワイアットも安心して囮として努められる。例外もあり、少し攻撃も受けることもしばしば。
ワイアットは相手の注意を引く。二足歩行の、恐竜のような見た目。背丈は三メートルほどと小さめな方。背が真っ赤で、腹部はクリーム色。鱗がとても固そうだ。
敵はドスドスとワイアットに近づく。囮だから注意を引くだけではない。アガタが攻撃しやすいように仕向けるのもワイアットの仕事。ある程度相手の体力を削っていき、アガタが倒しやすくするのも手だ。
「アガタさん、いつでもどうぞ!」
「ありがとう、ワイアット!」
赤い髪の毛をなびかせながら走る。とんでもない速さで走る。腰に吊るしている鞘から剣を取り出し、敵の背後へ回り込む。敵はワイアットに夢中なのでアガタなど目にもくれない。
「はあっ……!」
アガタは剣を背中に突き刺す。痛みを感じたであろう敵がアガタの方へ向こうとしたので、ワイアットが「お前の相手は俺だろ」と言わんばかりに敵を挑発する。剣を腹部に素早い速さで刺す。
「ナイスワイアット!」
アガタはひたすらに敵の背中を切り刻む。背中が既に血だらけ。出欠多量で死ぬのもそう遠くはない。
「ワイアット! あなたが心臓を突き刺してお仕舞いにして!」
「わかりました!」
大体の生き物の心臓の位置は左寄りのほぼ真ん中の位置。その辺りを滅多刺しにしてしまえば、いくら大きくて強い生き物も瞬殺できるだろう。タフな生き物を除けば。
ワイアットは心臓がありそうな場所を刺しまくる。三メートルなので、心臓の位置がやや高い。刺しにくいが、なんとかやっている。
「あっ」
敵はぐらついた。ワイアットの方へ倒れてきたので、急いで避ける。
バタンッ。巨体が倒れた。近くにいたアガタとワイアットは、少し揺れを感じた。
「ありがとうワイアット。ワイアットのお陰ですごく早く終わったね」
「いやいや。これならアガタさんひとりでも倒せるんじゃないでしょうか」
「何を言ってるの。ワイアットとやるから楽しいの。さて、この十万は半分こね」
「あっ、ありがとうございます」
ワイアットは頬を染めながら五万ゴールドを受け取った。
「さて、お出掛けしようか」
「はい」
アガタとワイアットは来た道を戻る。
ワイアットはアガタの事が好きなのだ。一時は一緒にお出掛けができなくなっちゃった、なんて思ってしまったが、こうやって依頼を終えた後でもお出掛けしてくれるアガタに更に惚れたところだ。
ワイアットがひとりで途方にくれていたところを、アガタが救ってくれた。しかも有名人。そんな才色兼備のアガタを、ワイアットは惚れずにはいられなかったろう。
アガタとこなす依頼は、ワイアットにとっては楽しいものだ。好きな人と共に色んな事を経験できている今が、最高に幸せなのだろう。
「ワイアット」
「はい?」
「次も頼むぞ」
「もちろんですよ!」
アガタの美しい笑顔に、ワイアットまでつられてしまった。
━━あぁ、好きだなぁ。
こんな優しいアガタに、いつか想いを伝えられたらいいな。
こんな感じじゃなかった