0 プロローグ
雲が雲でいられないのなら、その千切れ行く小さな欠片達は果たして何であり何処へ消えていくのだろうか。それは雲のままではいられなかったのか。
僕らはまだ風が生まれて消えていく場所すらも知らず、平等だのを唱える事は出来るがそれを実現する目途さえ立てれてはいない。
それら全ての疑問や不可能は例え目の前に魔法のような便利な力が用意されていても、未来永劫に疑問や不可能のまま変わることは無いのだろう。
真に疑問や不可能である事に、人は触れてはいけない、触れてすらいけない。
ただそこにあれば良かったと、後悔するだけなのだから。
雲を散らす風が生まれる場所を知る時、きっと僕らは雲の欠片達の末路を知るだろう。そしてそれと同時に僕らは雲の最後を見届けながら、人の最後も同じくして見届ける事が出来るのだ。
机に並べられたクズクズの果実も、デッサンの炭を擦りつけられるブレッドも、水面に投げられた薄い小石すら、きっとその瞬間は僕らの側に良き隣人として寄り添っているはずなのだ。
だから、それには触れてはいけない。
これはそういうお話だ。
ギオゼッタの場合は、始まりは気持ちいい風の吹く小高い丘であった。
彼の寝そべる側で同じくらいの高さになった小さな草花がそよそよと揺れ動いているのを、彼は驚いたような目で空を見ながら聞いていた。
彼には記憶がなかった。
何処で失ったのか、はたまた奪われてしまったのか、それすらもわからない。ただはっきりと忘れた事を覚えているのだ。
それでも彼の服装は立派な冒険者のようだった。ほんの少し離れた場所には旅の道具と少しばかりの貴重品が収められたバックが置かれており、彼の服のポケットは空だったが、サイドポーチには大事そうに小物が入っている。
雲がすらすらと何処かへ流れていく。
己の年齢すらわからない。彼はまだ見渡してもいないが、そこの辺りは一面に広がる緑のテーブルで、野生の生物が活き活きと命を全うしている。だが、人の歩いた道はある。キャラバンかそれとも同じく旅人か、誰かも知らない勇敢な人々が雲と同じく何処かへ行こうと道を生んだのだ。
「……ギオゼッタ……ギオゼッタ…」
うわ言のように呟かれていたその言葉は、すぐに彼の名前になった。
風が止んだ。
のっそりと彼が起きあがると、雲の尾から辺りをしっちゃかめっちゃかに照らし出す陽が顔を出す。
辛そうな顔をした彼はすぐにバックを身に着け、テーブルの両端へと果てなきように続く道に踏み出した。きっとどちらに進んでもいずれかは人のいる場所にたどり着けるだろう。
それがどんなに遠くても、彼には錬金術があったのだから。
今まで比較的真面目にやってきたのですが、とびっきり厨二な作品が書きたかった、書きたくなった。でも僕にはそういうギラギラしたのは無理そうです。
でも努力してやっていこうと思いますので、よろしくお願いします。
作品自体は6000字オーバーぐらいを目安にしたいのですが、この作品はそれを大幅にオーバーするかもしれません。