第三話ギルド
あれから、数時間優羽は歩き続けていた。
(まだ街道にでないのか)
あれからも何度か戦闘があり、全てにおいて簡単に戦闘を済ませていた。
(しかし、この森にはリトルゴブリンしか居ないのか?)
優羽が今に至るまでに戦闘をしてきたのは、全てリトルゴブリンだった。
そんなことを考えながら歩いていると、木々の間から光が見えてきた。森を抜けると目の前には綺麗に舗装された街道があり、優羽から見て左側に大きな街が見える。(あの街を目指すか)優羽は左手に見えた街へと向かうべく歩き出した。
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街の中は、外の静けさが嘘のように賑わっていた。その中でも一際大きな声をあげているのは出店の宣伝であった。
「さあさあ!うちの焼き鳥はただの焼き鳥じゃないよ!なんとあの『大怪鳥フレースヴェルク』の肉を焼いた焼き鳥だよ!今ここにある分だけしかないから買わなきゃ損だよ!」
「おい、そこの店主、それはそんなに美味いのか?」
「ああ!もちろんだ!そうだ!にいちゃん、良かったら一本食ってみるか?」
「…良いのか?」
「いいっていいって!ほらよ!熱いから気をつけろよ?」
優羽は店主から渡された焼き鳥を眺めた。(見た目は普通の焼き鳥だな)
それから一つを串から頬張る。
(………ん!?なんだこれは!?こんな美味い焼き鳥は食ったことがない!何故こんなに身が柔らかいんだ!更に、このタレ!このタレが肉の味を最大限に活かしている!)
「美味い」
その言葉を聞いた店主は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「そんなに気に入ったんならもう5本やるよ!」
「いいのか?俺は今金を持ってないぞ」
「いい、いいそんな美味そうに食ってくれんだ、ついもっと食わせたくなっちまう」
「そうか、ありがとう」
店主から追加の5本を受け取り、この街に恐らくあるであろう《冒険者ギルド》を探す。
「ここか?」
目の前には、一軒の建物があり、両開きの扉の上にでかでかと《冒険者ギルド》とこちらの文字で書かれていた。
扉を開き、中に入ると、中にいた人間達から値踏みするような視線が突き刺さる。
しかし、優羽はそれを不快に思いながらも、無視し受付カウンターらしきものの所へ歩を進める。
「登録ってここでできるか?」
「はい、可能ですよ少々お待ちください」そういって受付は小さな水晶のようなものを取り出した。「それは?」
「はい、この水晶に手をかざすと、なんと、ギルドカードが発行されちゃうんです!………原理はわかってませんが」
わかってないのかよ、と優羽は心の中でツッコミを入れる。
「じゃあ、手をかざしてください」
優羽が水晶に手をかざすと、水晶が淡く光り出した。
「はい、これであなたは認証されました、今日から正式にギルドの一員ですね!おめでとうございます!」
受付はカウンターの下へ潜り、一枚のカードを取り出した。
「こちらがあなたのギルドカードとなります。なくされた場合は、それ相応のペナルティーがございますので注意してくださいね?」
渡されたギルドカードにはこう記されていた。
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ユウ・カザキリ
Rank F
魔法属性 無
クレジット 0
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「この魔法属性無っていうのは?」
「はい、それは魔法属性がない、つまり属性魔法が使えないか、固有魔法の持ち主かって事ですね。固有魔法をご習得されているんですか?」
「いや、覚えがないな」
「でしたら、ユウさんは属性魔法を使えないって事ですね。」
(そうか…魔法は使えないのか…いや、待てよ?)
「属性魔法はって、属性なしなら使えるのか?」
「はい、魔力を放出するだけなら、その方法を取得できる魔書が、確かギルド書庫にあったかと思います。後で行ってみては?ただ、魔書を読むには魔書に対する適正が………行っちゃった」
受付がユウを引き留めようとしたときには、ユウは書庫の入り口を通っていた。
(無属性、無属性…)
この《ギルド書庫》には、薬草と毒草の見分け方、周辺の魔物の習性などの冒険者必見とも言える本が大量に保管されていた。
(お!あった)
ユウは目的の本、『無属性の魔力操作』という本を見つけ出し、備え付けの椅子に腰掛け、読み進める。
数十分ほどかけて読み終えると、本をパタンと閉じ、元の位置に戻して書庫をでる。
そのまま、依頼を受けていこうと思い、掲示板から手頃な依頼書を取り、さっきの受付には人が並んでいたので、別の受付の元へと向かう。
「このクエストを受けたい」
「はい、[カルニア大森林]でゴブリン5体の討伐依頼ですね。こちらは三体追加討伐するごとに追加報酬が出ますがよろしいですか?」
「ああ、それで構わないんだが、その[カルニア大森林]が何処なのか教えてくれないか?」
「街を東側に出て[キュリアス街道]を少し行って、みぎがわのほうにあります。」
受付はわざわざ周辺の地図を取り出し、説明をしてくれた。
(要するに最初にいた森だな)
「で、この[カルニア大森林]ですが、ここの植生は少し特殊で、状態異常を誘発する果実が多く存在していて、ゴブリン達がその実を食べると、稀にですが、状態異常への耐性スキルや、状態異常の付与スキルに目覚めてしまう場合があります。ですので、そのあたりに気をつけておいてください」
ユウはその説明を聞き、ゾッとした。
――あの森のゴブリンはそんなに物騒なのか。と、リトルゴブリンとの戦闘を無傷で乗り切れたからいいものの、もしも攻撃を喰らい、状態異常付与スキルが発動したりしたら、恐らくユウは何の抵抗もできなかっただろう。
「ああ、わかった。ところで、剣の支給とかあるか?」
「はい、ありますよ、普通のロングソードですが。新人冒険者への支給品ですので、返却は必要ないですよ」
「そうか、ありがとう」
そういって受付が持ってきたロングソードは確かに普通のものだった。
それを受け取り、ギルドを出た。