第十八話 罠地獄
《エルシーア》を出て数日後、ユウ達一行は魔物の群れと対峙していた。
「フンッ!」
かけ声とともに、人間大のトカゲが二足歩行になり、剣と鎧と盾を装備した魔物『リザードナイト』がゼノンの槍により刺し貫かれ倒れる。
その後ろから残り二体のリザードナイトが接近する。
「どいてろゼノン!」
《ゼビュロス》に魔力を込め、上段に振りかぶる。
ゼノンが後退したのを確認し、力を込めて振り下ろす。
ゴウッ!。
と風が吹き荒れた。
《ゼビュロス》から放出された猛風はカマイタチと化しリザードナイト達を切り刻みその命を奪う。
「ふぅ………まだ上手く使えないな」
ユウの足には先ほどの旋風により切り傷ができており、血を滴らせていた。
「それでもだいぶ上手くなったじゃないか」
槍をしまい、慰めの言葉をかけるのはゼノン。
今でこそ被害はユウの足のごく一部だけにとどまってはいるが、使い始めて数回はかなり酷かった。
ゼノンに被害が出るのは当たり前、狙った方向に風が飛んでいかない場合もあった。
そのころを思い出し、それもそうだ、とユウは納得する。
ふと足に生暖かい感触を感じ、見るとジンライが傷口をなめていた。
「ワン!」
「……ユウ大丈夫?」
心配そうに声を出すのはフィロ。
「お前等な………この程度なら何回もあったろうが。いい加減慣れろ」
心配して近付いてくる一人と一匹を引き離す。
《ゼビュロス》により傷ができる度にこうやって近付いてくる一人と一匹にいい加減ウザッたさをおぼえていた。
「おいゼノン、《グラリス洞穴》にはまだ着かないのか?」
「もうすぐだ。後半時も歩かないうちに到着するはずだ」
「なら早く行くぞ」
「ワン!」
「………待って」
自分がもうすぐだと言ったとたんにグングンと歩いていったユウにつき従って歩く一人と一匹を見て、ゼノンは一人その精悍な顔に苦笑いを浮かべるのであった。
《グラリス洞穴》
あれからしばらく歩いたユウ一行を迎えたのは、小さな入り口だった。
「おいゼノン。ここがそうなのか?」
「ああ、ここで間違いない」
そうか、と呟き、ズカズカと洞穴へと歩く。
入口は小さかったが、中はかなり広かった。
「で?ここには何をしに来たんだ?」
「そういえばまだ教えていなかったな」
そう言ってゼノンは懐から、野球ボールくらいの大きさの紫紺に透き通る宝玉だった。
「それを探してるってことか?」
「鋭いな。そうだ、俺達はある目的のためにこれを探してる。全部で11個、俺達が現在所有しているのは5個だ。残り6個を探さなければならない」
(《ゼルベス山》に言ったのもそれが理由か)
「なるほどな。で、その宝玉がこの《グラリス洞穴》に隠されているわけか」
ゼノンは宝玉をしまうと頷き
「そういうことだ。人の手が入っている可能性が高いから罠に気をつけろ」
ガコン!と何やら罠が発動したかのような音が後ろから聞こえた。
もしや、と思い振り返るとそこには、片足を地面の窪みに沈め、泣きそうな顔をしているフィロがいた。
「……ご、ごめんなさい」
ドゴォ!と入口の方向から大きな丸い岩が転がってきた。
前にもこんなこと有った気がするなぁ、と半ば現実逃避しつつも、前方へと全力疾走。
「ふむ、前にもこんなことがあった気がするな」
後ろからフィロを脇に抱えたゼノンが並んでくる。
「ワン!」
ジンライもその名に恥じないスピードでユウのやや前方を走る。
「おいフィロ!魔法であれ壊せ!」
逃げ切ることを諦め、フィロに破壊を要請する。
「ん………わかった」
ゼノンに抱えられたまま両手を岩につきだし、雷撃を放つ。
大きな爆裂音を放ち、岩は爆散した。
「ふむ、何とかなったな」
ゼノンがフィロを下ろす。
ゼノンに下ろしてもらってすぐにフィロがよってきた。
「よくやった」
頭をなでてやると満足そうに目を細める。
「よし、奥へと向かうとしよう」
ゼノンの号令で、また奥へと進む。
すると、またもやガコンッと背後から音がした。
嘘だろ!?と思いつつも振り向くと、そこにはやはり泣きそうな顔をしたフィロの姿があった。
「ご…ごめんなさい…」
また大岩かと身構えるが、岩が落ちてくる様子はない。
「何だ?不発か?」
「そのようだな」
警戒を緩めた瞬間頬に一筋の傷が走った。
直後、左の壁でカーン!と何かをはじく音が聞こえた。
「何だ?」
そちらを見ると、一本の矢が折れて地面に落ちていた。
「走れ!!」
誰よりも早く事態に気づいたゼノンがフィロを抱えて走り出す。
直後、左右から矢の雨が飛び出した。
「うおおおぉぉぉぉぉ!」
【加速】を使用して駆け出した。
この罠地獄はいつまで続くのだろうか。