第十七話 ゼビュロス
「うぅ……。頭が痛む」
頭を押さえ、ベッドに腰掛けているのはユウ。
「………大丈夫?」
ユウの隣に座り、ジンライを撫でながら心配気な声を出すのはフィロ。
「まさかお前が酒に弱いとはな」
「ああ、ひどい目にあった」
ライアンと握手を交わした後、ライアンはユウをその場のエルフ達に紹介した。
『《エルシーア》の英雄』だと。
その結果、その場の酔ったエルフ達に胴上げされ、酒を飲まされ、胴上げされ、とひたすらもちあげられた。
その後、シエルとサラの助けで何とかその場を脱し、大樹をくり抜いて作られた城の一室に逃げ出して眠り、朝を迎えて今に至るというわけである。
(これが二日酔いって奴か………予想外にきつい…)
ユウは前の世界での飲酒経験はなかった。
故に請われるがままに飲んだ。
その結果がこれである。
「水でもいるか?」
「ああ、頼む…」
「ほら、これからは気をつけろよ」
その時、控えめなノック音の後、扉が開かれた。
「おはようございますユウさん!ご加減はいかがですか?」
入ってきたのはシエルだった。
「………あまり大声を出さないでくれ…」
頭を押さえ、大丈夫じゃない現状を伝える。
しかし、シエルには伝わらなかったようで
「すいません!気をつけます!後、朝食の準備ができましたよ!」
彼女の背後からガラガラと音を立てながらサラが料理を運んでくる。
「私とサラはもう食べたので、さあ食べちゃって下さい」
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「それで?何か用事があってきたんだろ?」
体調がだいぶ戻ってきたユウが尋ねる。
料理を運んでくるだけならサラだけで問題ない。
シエルがわざわざ来るということは、何か用事があるのだろうと踏んだのだ。
「よくわかりましたね!そうです!国王がユウさんをお呼びですので、玉座の間まで案内するよういわれていたんです!」
「何故また?挨拶やら何やらは昨日すませたはずだが」
少なくとも、今回の件の報酬の話は決着をつけたはずである。
「さあ?お話があるとかで」
まあいいか、と壁に掛けていたコートを羽織る。
「………ねえ」
そこで、ジンライを撫でていたフィロがシエルに視線を向けた。
「はい!なんでしょう?」
「私達も行っていいの?」
「ええ!もちろんです!是非いらして下さい」
その言葉を聞き、身支度を始めたフィロをゼノンは溜め息をつきながら眺めていた。
シエルに案内され、玉座の間に着いた。
「おお!よく来てくれたな《エルシーア》の英雄よ!」
ユウの姿を認めるやいなや、国王--ライアンは玉座から立ち上がり声を上げた。
「何のようだよ国王サマ」
それに挑発的に応えるユウ。
「ああ、話というのは他でもない………もうちょっと近くに来い」
落ち着きを取り戻したライアンは玉座に座り直し、ユウ達を呼び寄せる。
「で、話というのはほかでもない。報酬の話だが」
「それについては昨日決着をつけたはずだが?」
確かに昨日に困ったことがあったら力を借りるということで話は終わったはずだった。
「ああ、我々《エルシーア》は何か君からの要請があった場合、総力を挙げて君を手伝う。それは間違いない。しかし、それとは別にこれを受け取ってほしいんだ」
そういって取り出したのは華美な装飾が施された、《エンドキャリバー》より少し長いくらいの剣だった。
「この剣は《エルシーア》に代々伝わる宝剣。その名も魔法剣。魔力を流すと剣自体に施されている風魔法が発動される」
《ゼビュロス》を受け取り、軽く振ってみる。
《エンドキャリバー》とは対照的に重量感がまるでない。
疑問に思いライアンに尋ねる。
「言っただろう?その剣には風魔法が施されている。重量感が無いのもそのためだ」
「なるほどな。しかし、そんな宝剣をもらってもいいのか?」
「構わないさ。我々エルフは剣は使わんし、風魔法など自前で使える」
言われてみればその通りだと納得し、鞘に納めて《エンドキャリバー》とは逆の腰に差す。
「ありがたく貰っていこう。用はそれだけか?」
「ああ、先日は本当に助かった。国を代表して言わせてもらおう、本当にありがとう」
そう言ってライアンは頭を下げた。
規模が小さいとはいえ一国の王が旅人に頭を下げるというのがどれだけのことかユウには想像することしかできなかった。
「じゃあ、俺達はもうこの国を出る。世話になったな」
そう言って、玉座の間を後にした。
「なあユウ。お前はこれからどうする気だ?」
玉座の間を出て、廊下を歩きながら横に並び話しかけてきたのはゼノンだった。
「どうする気とは?」
先ほど貰った《ゼビュロス》と旅を始めた時からの相棒である《エンドキャリバー》を揺らしながら、ゼノンの問いの意味を尋ねる。
「俺とフィロはこのままある目的のために旅を続ける。しかし、お前には俺達と旅をともにする理由もないだろう」
確かに言われてみればそうである。
《ゼルベス山》に同行した理由も、フレースヴェルクがいたからであった。
クイッ。
袖を引かれる感触がして、見てみるとフィロが不安そうな面差しでこちらを見ていた。
「いや、お前等の旅に同行させてもらう。理由ならあるぞ、その目的とやらが気になるし、その為に世界を回るんだろう?」
「ああ、しばらくはこの『亜族』大陸の各所を回るつもりだがな」
ゼノンが肯定を返す。
「なら俺の目的とも一致する」
ユウが同行の意を示すと、フィロがユウの腰に抱きついた。
「おい、離れろ歩きづらい」
「………ごめんなさい」
フィロはシュンとしてユウから離れる。
(懐かれたもんだな、最初会ったときは怯えてなかったかこいつ)
ゼノン達と初めて会ったときに思いふけっていると、ゼノンが唇に笑みを浮かべながら
「なら、次の目的地《グラリス洞穴》へと向かおうか」
「ワン!」
そうして、ユウ、ゼノン、フィロ、ジンライの一行はエルフの国を後にした。