うさみみはつらいよ
もりのおくに、きれいなくさむらがありました。
とてもあおあおとしていて、おいしそうなくさがたくさんはえています。
しかし、ふしぎなことに、このくさむらにはだれもいませんでした。
あるひ、このくさむらにうさぎのおとこのこがやってきました。
だれもいないことをふしぎにおもいながらも、はえているくさをひとくちかじってみました。
それは、とてもはごたえがあって、さわやかなあじわいでした。
これはすてきなくさむらをみつけたぞ、と
おとこのこはおおよろこびでした。
こんどは、だいすきなおんなのことここでデートしたいな、とおもいました。
おとこのこがむちゅうでくさをたべていると、
くさのかげのあなからおじさんうさぎがあらわれました。
どうやら、ここはおじさんのなわばりだったようです。
おとこのこははずかしくなって、すぐにたちさろうとしました。
しかし、おじさんは「いや、いいんだ。にひきではたべきれないし」
と、おとこのこをひきとめました。
おとこのこは、もっとくさがたべられる! とうれしくおもいました。
「わたしには、おくさんがいるのだけどね」
おじさんは、おとこのこにじぶんのことをはなしはじめました。
「うちのおくさんは、こどももつくらずにすあなでゴロゴロしているんだ」
「だから、おくさんのごはんは、わたしがいつもはこんでいるんだよ」
「そとはこわいからでたくないというんだ」
「わたしは、とてもこまっているんだよ」
それをきいて、おとこのこはとてもこまってしまいました。
おとこのこは、およめさんがほしいな、とおもっていたところなので
いやなおくさんのはなしはききたくなかったのです。
おとこのこは、みみをとじてしまいたくおもいました。
ですが、それはなわばりのあるじであるおじさんにしつれいなので、
しかたなくいつもどおりみみをたてながら、くさをたべていました。
「そとでなにかあったらこどもをうめない、というんだ」
「しかし、わたしがいないとくさもさがしにいけないうさぎだからね」
「きょうもこうして、おくさんのくさをはこんでいるんだ」
「こんなせいかつがいつまでもつづくのかとおもうと、きがおもいよ」
おとこのこも、きがおもくなってきました。
おとこのこにとっても、これはたのしいおはなしではなかったのです。
はなしをきいているうちに、きぶんだけでなく、おなかもおもくなってきました。
「ごちそうさまでした」
おとこのこは、なわばりのおじさんにおれいをいって、
こんどこそ、くさむらをあとにしました。
くさはとてもおいしかったのですが、
おじさんのおはなしがあまりにもおいしくなかったので、
おとこのこはとてもがっかりしました。
せっかくのくさむらですが、おんなのこにはおしえられない、とおもいました。
だいすきなおんなのこに、あのおじさんのはなしはきかせたくなかったのです。