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黒犬と旅する異世界 ~人の意思、世界の意思~  作者: 緋龍
突然攫われるに至った理由
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五話 賊ノ頭

「女、お頭がお呼びだ」


 勢いよく扉が開け放たれたかと思うと、柄の悪い男が部屋にずかずかと入ってきて雷華の腕を掴んだ。男が持つ大きめのカンテラの灯りで、部屋の中が照らし出される。窓がない部屋なのだとばかり思っていたが、木の板が打ちつけられているせいで部屋に明りが一切入ってこなかったのだということが分かった。が、そんなことが分かったとしてもあまり意味はないのだが。


 (確かここって二階だったわよね。となると、逃走防止のためと考えるのが妥当かしらね)


 担がれていたときに通った広い階段を思い出していると、部屋を見渡して動こうとしない雷華に苛立った男が、強く腕を引っ張った。


「おい、行くぞ!」


「痛っ! わかったわよ、行くから手を離してちょうだい」


「ライカさん……」


 ロベルナが心配そうに見上げてくる。


「心配しないで。きっと大丈夫だから」


 にこりと笑って自由になる方の手で頭をぽんぽんと撫でてやれば、ロベルナは泣きそうになりながらもこくりと頷いた。頷き返してから、ようやく部屋の外に出る。男のこめかみからは血管が浮き出かかっていた。


 (ここでこいつを倒すのは得策じゃないわよね……)


 廊下のそこかしこにある瓦礫がれきの山を視界の隅に捉えながら思いを巡らす。仲間が何人いるかも分からない状況で軽はずみな行動は避けるべきだろう。やみくもに動いても良い結果が得られるとは思えない。はなはだ不本意ではあるが、大人しく彼らに従って様子を見るしかないと、雷華は軽く溜息をついた。


「こんなところに連れて来られて怯えもしねえなんて変な女だな」


 前を歩く男が歩きながら振り返る。馬鹿にするでも揶揄するでもなく、純粋に驚いているといった感じだ。怒りはもう収まったらしい。


「それはどうも」


 一瞬だけ男と眼を合わせてすぐに逸らした。と、そのとき男の手の甲に見覚えのあるものを見つけた。


「狼の刺青……」


 確か妖雷鳥の卵を奪った奴も似たような刺青をしていたはずだ。あの集団も嘲狼ちょうろうだったのかと思ったが、刺青の模様が違う気もする。もっとも、あのとき一瞬しか見ていなかったので確信はなかったが。


「そう、これが嘲狼の証さ」


 呟きが聞こえていたらしい。男はわざわざ刺青がよく見えるように、雷華の眼の高さにまで腕を上げた。手の甲には力の限り吼えている眼の潰れた狼が彫られている。

 いている。牙をむき出しにして吼えている姿なのに、どうしてかそう感じた。どこがと訊かれても上手く説明出来ないが、この刺青には哀しみが溢れている、そんな気がした。 


「着いたぜ」


 男が足を止めた場所は巨大な扉の前だった。崩れている部分の多いこの城の中でしっかりと存在を保っているその姿は、扉の先にいるあるじを守っているかのようで。天井まで続く扉を前にして、雷華は町が滅びるまでこの城にいたはずの人々に思いを馳せた。


 (自分たちの城が悪用されていると知ったらどう思うのかしらね)


 怒り悲しむのだろうか。それとも何も思わないのだろうか。そんなことを考えていると男が口を開いた。


「一つ忠告しといてやろう。お頭を怒らせないことだ」


「それはそれは、ありきたりな忠告をありがとう」


 言われなくても分かってると言外ににおわせれば、男は「けっ、そうかよ」と苦々しげに呟いて扉を勢いよく叩いた。


「お頭、女を連れてきやした!」


「……ああ」


 中から返ってきたのは低い男の声だった。忠告をしてくれた男は扉を開け、雷華の背中を押して中へ追いやると自らは中に入らず扉を閉めた。

 部屋の中は至るところに火が灯してあるせいで意外にも明るかった。そのことにほっと胸を撫で下ろす。暗闇が恐いわけではないが、明るいに越したことはない。


「こちらへ来い」


 直線状に二列に並んだ丸い支柱に眼を奪われていると、奥から先ほど扉越しに聞いた男の声がした。随分と威圧的な奴だと思いながらも、素直に声のした方に向かう。

 部屋の中央奥に男はいた。おそらく五十年前は光り輝いていたであろう、色褪せた椅子に一人座っていた。周りには誰もいない。手下を何人も傍に置いているのだろうと勝手に想像を膨らませていたのだが、どうやら違ったようだ。


「貴方が、ここの頭」


「そうだ。レヴァイアという」


 椅子に座った金の髪に蒼い瞳をした四十歳くらいの男はそう名乗った。低い声からも怜悧な顔からも感情を読み取ることが出来ない。なのにどうしてか死を感じる。雷華は理由わけもなく眼の前にいる男が恐いと思った。


「……私をここに連れてきた理由は?」


 怯えている場合ではないと掌をぐっと握りしめ、雷華は口を開いた。


「お前の名はライカで間違いないか」


「そうよ。それが何か?」


 自分の名前と連れて来られたことに何の関係があるのか。疑問に思いながらも話を先に進めるために頷いて肯定を示したのだが……次にレヴァイアの口から出てきた言葉は思いもよらぬものだった。


「一年前、王都リムダエイムにあるバルロイ伯爵家で使用人として働いていたな」


「……は?」  

         

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