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五十七話 下ル裁

「そうなのか。ちょっと意外だが、まあライカはこの世界の人間じゃないからな。色々考えることもあるだろ。納得のいく答えが出るまで悩めばいいさ」


「クレイ……」


 てっきり馬鹿にされるか、おちょくられるものと思っていた雷華は、予想に反して真剣な答えが返ってきたことに驚く。そして、誰かに聞いて欲しかったのだということに気付いた。早く答えを出さなければと焦りばかりが積もっていた心に、クレイの言葉は優しく温かく響いた。


「貴方の口からそんな言葉が出てくるなんてね。びっくりだわ。でも、ありがとう」


 カップから視線を上げて軽く笑う。すると、クレイも長い足を組んでにやりと笑った。


「俺だってたまには、な。どうだ、惚れたか?」


「……まったく、見直したと思った途端にそれ? クレイらしいといえばらしいけど。あ、そういえば、貴方に訊きたいことがあったのよ」


「なんだ? 俺の財産か?」


「そんなものに興味あるわけないでしょう。伯爵のことよ。母親を人質にとってロウジュを暗殺者にした最低な奴。えーと、名前なんだったかしら」


 クレイの冗談を軽く受け流し、手にしていたカップを机に戻す。ルークの前に置いてあるカップを取り鼻先に近づければ、彼は眉間に皺を寄せながら無言で飲み始めた。

 はち切れんばかりに太った、心も体も醜い伯爵。彼が捕らえられたことはロウジュから聞いていたが、その後どうなったのか。裁かれたのであれば、その結果が知りたかった。


「ああ、あのハゲデブ伯爵ね。今、審問中だな。もう終わってるかもしれないが……おそらく奴は極刑だ。家族・親族は身分を剥奪はくだつされ、砂漠にある収容所に送られることになると思うぜ」


「そう。重い罰ね」


 伯爵が過去にしてきた非道な行いを考えれば至極妥当なことなのだろう。反対するつもりも同情するつもりもない。あれだけの罪を犯した者にどれほどの罰が下されるのか、それが知りたかっただけだ。


「当然だ。出来るなら俺が殺してやりたい」


 隣に座るロウジュが拳を握りしめて呟く。声に感情は篭っていないが、彼が怒っているのは明白だった。


「ロウジュ……」


「言い分は分かる。だが、お前がそれをすればただの私怨になってしまうんだ。どれだけ憎くても、我慢しろ」


 冷たくそう言われたロウジュは、向かいに座る赤髪の伯爵を睨む。だがすぐに、ついと視線を逸らした。彼もクレイが正しいと分かってはいるのだろう。

 豪華で広い応接間に沈黙がおりる。雷華はふと部屋の中に爽やかな香りが漂っていることに気が付いた。視線を巡らせば、部屋の脇に置かれた棚の上にソルドの花が飾られていた。あの可憐な花は確かソルドラムの特産品。ということは、わざわざ持って来たということになる。


 (滞在する部屋に飾るために生花を? クレイがそんなに花好きとは思えないけど。バルーレッドさんの判断かしら)


 白と水色の瑞々(みずみず)しい花を眺めながら首を傾げていると、誰かが応接室の扉を叩いた。クレイが短く返事をすると静かに扉が開かれ、お茶の用意を済ませたあと、隣に控えていると言って部屋を辞したバルーレッドが一礼をして入ってきた。緊張しているのか、やや顔が強張っているように見える。ルークもいつも冷静な執事の様子がおかしいことに気付いたようだ。伏せていた身を起こして、バルーレッドの動きを注視している。


「珍しいな、お前がそんな顔をするなんて。何があった」


「クレイ様、ヒューゼヴェールト陛下がお越しになられました」


「は!?」


 全くの予想外だったのだろう。クレイが素っ頓狂な声を上げた。

 ヒューゼヴェールトといえば、この国の王だったばず。何故一国の王が他国の貴族に会いに来るのか。もし、クレイと王が親しかったのだとしても、会いに来るのではなく呼び出すのが普通だろう。雷華は眉をひそめて二人の会話に聞き入った。


「供の者も連れられずに、お一人で来られたご様子。いかが致しましょう」


「いかが致しましょうって、そりゃ会わねえわけにはいかねえだろう。用件は訊いたか?」


「ソルドの花が欲しいと。生誕祭用の花は明日献上させていただくとご説明申し上げたのですが、それとは別に欲しいと仰られまして」


「なんでまた……ああ、そうか……バルーレッド、献上用の中から何本か抜いて花束を作ってくれ。そんなに量はいらない」


 クレイはヒューゼヴェールトが来た理由に思い当たったらしく、バルーレッドに指示を出すと長椅子から立ち上った。


「畏まりました」


「それで、陛下はどちらに?」


「玄関広間でございます。部屋への案内は不要だと仰られましたので。傍に侍女を一人控えさせております」


「わかった、すぐに行く」


 バルーレッドは頭を垂れると、音もなく部屋から去っていった。頭をかいて、まいったなと呟くクレイ。彼はふうっと息を吐くと、すまなそうな顔をして雷華たちを見た。


「そういうわけだからちょっと席を外すぜ。それとライカ、悪いんだけど一緒に来てくれないか?」


 名指しされた雷華はきょとんとなる。一緒に行く理由が見当たらない。


「クレイを訪ねてきたのはこの国の王様でしょう? どうして私が?」


「陛下の過去を見てほしいんだ」       

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