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五十六話 赤イ主

 ソルドラム領主クレイ・ヴォード伯爵の執事、バルーレッド。ルークの正体も知っている彼は、黒犬に対しても優雅に一礼した。だが、さすがに話しかけることはせず、壮年の紳士は視線をアムジットに戻した。フィエマ商会の少女は、訪れた人物と雷華が知り合いだというとこに眼を丸くして驚いている。


「お願いしていた品は出来ていますでしょうか。持ち帰って問題がないか確認したいのですが」


「は、はい。ヴォード伯爵様の礼服でございますね。しばらくお待ちくださいませ」


 アムジットはあたふたと一礼すると店を出て隣の建物に駆けていった。先ほど夕一の鐘が鳴ったばかりなのでまだ外は明るい。店の前の通りも賑やかに人が行き交っている。バルーレッドが乗ってきた馬車が止まっている通りの反対側で、数人の男が固まって何やら話し合っていたが、兵士が通りかかるとそそくさと去っていった。


「もしかして、こちらではなかったのでしょうか」


 アムジットの後ろ姿を見ながらバルーレッドが微かに顔を顰めた。その様子から察するにフィエマ商会に来るのは初めてのようだ。今まで手紙のやり取りでもしていたのだろうかと首を傾げながらも、雷華は簡単に説明した。


「隣は貴族専用の店なんです。でも、どちらもフィエマ商会ですから大丈夫だと思いますよ。で、バルーレッドさん、どうしてイシュアヌに? 貴方がいるということはクレイも来てるんですよね?」


「左様でございましたか。はい、我が主も来ております。生誕祭に出席するためでございます」


 バルーレッドの言葉を聞いたルークが「忘れていた……」と苦々しげに零した。どうやらクレイが生誕祭に出席することは知っていたらしい。


「生誕祭? そうだったんですか。まさかこんなところでバルーレッドさんに会うとは思わなかったので、とても驚きました」


「私も驚きました。いかがでしょう、ライカ様。主にもお会いになりませんか? きっとお喜びになると思いますので」


「そうですね」


「却下だ」


 バルーレッドの提案に頷く雷華と首を振るルーク。雷華は足元の黒犬を軽く睨んだが、彼が何を言っているかは自分にしか分からないことを思い出し、にやりと笑った。


「ルークもクレイに会いたいって言ってますし、お邪魔させてもらっていいですか? あと、後ろの彼、ロウジュも一緒でも構いません?」


「ライカっ!?」


 何を言っているのだといった表情でルークが見上げてくるが、知らんぷりを決めこむ。疲れ切った身体には豪華な食事……ではなく、懐かしい人との語らいが必要。それにクレイに訊きたいこともあった。


「もちろんでございます」


「俺はヴォードになど会いたくな――」


「じゃあ少し待ってて下さい。ロウジュ、着替えに行くわよ」


「わかった」


 吼えるルークを遮り、ロウジュを促して店の奥に繋がる扉に手をかける。


「ライカ!」


 納得のいかないルークが後に付いてこようとしたが、雷華は躊躇いなく扉を閉めてそれを阻み、二階へと続く階段に急いだ。





「久しぶりだな、ライカ! また会えて嬉しいぜ!」


「クレイ、久しぶりね。こんなところで会えるとは思わなかったわ」


 リムダエイム上層区画、王城のすぐ傍に建ち並ぶ迎賓館。他国や遠方の貴族を迎えるための豪奢な館の一つに、クレイはいた。バルーレッドに案内された広い応接室で待っていると、両開きの扉が勢いよく開けはなたれ、燃えるような赤髪の彼が姿を現した。


「ルークは相変わらずの姿のようだが……隣にいる眼つきの悪い奴は誰だ?」


 長椅子の上で伏せている、すこぶる機嫌の悪いルークを一瞥いちべつしたクレイは、ロウジュに視線を移した。


「彼はロウジュ。一緒に旅をしてくれているの。貴方の屋敷で私を襲ってきた暗殺者よ」


「はぁっ!? それ大丈夫なのか……ははーん、さては惚れられたんだな」


 雷華の紹介に驚きの声を上げたクレイだったが、すぐに口元に意地の悪い笑みを浮かべた。


「うっ、な、なぜ分かるの」


 図星をさされ思わずたじろぐ。顔を赤くしてわたわたと手を動かす雷華を、面白くなさそうにルークが見ていた。


「勘だ、勘。あえて言うならそいつのライカを見る眼かな。で、どっちにしたんだ?」


 バルーレッドが用意したお茶を飲みながら、クレイが興味津々といった様子で訊いてくる。気持ちを落ち着けようと同じようにお茶を飲もうとした雷華は、もう少しでカップを落としそうになった。


「な、なにが?」


 平静を装うとしても心臓は正直だ。どくどくと早鐘のように脈打ち始めた。


「そこの不貞腐れてる王子と、暗殺者。選んだんだろ?」


「……選んでないわ」


 黒と紫の瞳が自分を見ているのを感じる。雷華は視線をカップの中に落としたまま、小さな声で答えた。選べるものならとっくに選んでいる。だが、どちらにも惹かれるのだ。答えを出さないといけないのに、今の灰色の状態が続けばいいとさえ思う自分がいる。それが誰のためにもならないと、分かっていても。 

  

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